今度はノンフィクション――『奴隷労働ーベトナム人技能実習生の実態ー』(4)

技能実習生が、事業所から逃げることを、「失踪」と呼ぶ。

でもそれは、果たしてふさわしい言葉なんだろうか。これは自分の身を守るための「脱出」、または「避難」ではないのか。
 
2017年に「失踪」した技能実習生は、法務省の調査によれば7089人、18年も、6月末までで4279人を数える。
 
そのうちの約7割が、「失踪」の理由に、低賃金を上げたという。
 
けれども低賃金以前に、日常で曝されている、有形無形の「暴力」の存在がある。

「就労期間中に実習先企業において、むなぐらをつかまれる、顔を殴られる、すれ違いざまに肩をわざとぶつけられるという身体的な暴力、『ベトナムに帰れ』『バカ』といった言葉による暴力、モノを投げつけられる、体を触られるなどのセクハラ、ケガをしても十分に治療させてもらえない、行動を監視される、外出を禁止される、罰として雨の中で外に立たされるといった状況に置かれていた人たちがいた。」
 
ベトナム人は、これを仕方なく、日常のこととして受け入れている。もちろんこれは、一回性のものではなく、日常的、常習的に起こっていることなのだ。
 
もっとひどい例もある。

「筆者が話を聞いた技能実習生の中には、朝3時までの長時間労働で休みがほとんどないという人や、……あるいは放射能汚染の『除去』といった危険な仕事をさせられた人がいた。」
 
これを「失踪」とは呼ぶまい。どう見ても「避難」、または「脱出」であろう。
 
グエン・タン・スアンさん(仮名)は、ベトナム中部出身の20代の女性だ。この人も、渡航費用として全額を借金し、約110万を借りた。
 
この人も、縫製会社で働いた。労働時間は、午前8時から、翌日の午前3時まで。正午から午後1時までの昼食休憩と、午後5時から6時までの夕食休憩以外は、ずっとミシンの前に座り、働き続けなければならない。
 
休みは月に4日、または3日。毎日、休憩時間を除くと、17時間の労働で、ほかにどんなことをすればいいのか。
 
そして、スアンさんの手取りは、家賃や電気代その他が引かれ、月に8万~9万円ほど。

スアンさんたち、技能実習生のタイムカードは、自分では押すことができず、管理者がタイムカードを押し、管理していた。長時間の残業労働の分は、まったく計上されていなかった。
 
スアンさんは、1年以上たったとき、その縫製会社をこっそり抜け出し、東京を目指した。

そのとき頼りにしたのは、SNSであり、それを通じて派遣会社を見つけ、そこに身を寄せたのだ。

「この派遣会社は会社から逃げてきた技能実習生など、在留資格外の活動をしたり、あるいは在留資格のない外国籍者にも仕事をあっせんする会社だった。」
 
技能実習生が逃げた先に、そういう「会社」が存在し、それが結果的に、日本の産業の下支えをしていることに、注意しなければならない。
 
技能実習生が職場から逃げるのを、可能にするのは、そういう労働市場の存在があるからこそであり、まったく暗澹となる。
 
とはいえ実習生が、日本語を勉強し、莫大な費用をかけて、日本に限りない希望を持ってやってきたのに、ここまで追いつめられているというのは、しかもその数が、年々増えているというのは、じっとしてはいられないことだ。
posted by 中嶋 廣 at 09:17Comment(0)日記

今度はノンフィクション――『奴隷労働ーベトナム人技能実習生の実態ー』(3)

ベトナムでは月額平均給与、2万円台にもかかわらず、来日するのに、100万円前後の借金をする。
 
ちょっと考えれば、そんな愚かな借金は、できるはずがない。でもその後押しを、国営銀行がする。
 
これは送り出す側の、ベトナムの問題である。

そして私が思うに、共産党の一党独裁政府は、どんなことでも、改めるのに恐ろしく時間がかかる。あるいは、ついに改めることがない。

これはもちろん、共産主義政府にかかわらない。権力が集中して、独裁に近くなれば、みな必ず腐敗する。
 
それで、日本に行きさえすれば、その金はすぐに返せて、その後は、故郷の家族に仕送りをし、しかも働く本人は貯金ができる。こういう話が、今もそのまま通る。
 
ベトナム北部出身の女性、フエさん(仮名)は、技能実習生として日本で働いている。給与は月に12万円。そこから家賃、税金、保険料、ガス代などを引かれると、残るのは7万ちょっと。そこから家族に仕送りしている。
 
ニャンさん(仮名)も、ベトナム北部で生まれた女性。来日後は養鶏場で、実習生として働き、給与は月に15万5千円である。そこから家賃、税金、保険料として3万5千円が引かれる。手元に残った12万円のうち10万円を、ベトナムの家族に送金している。
 
彼女に残るのは2万円のみ。その中から、食事代その他の雑費を、出さなくてはならない。
 
今までの例は、恵まれている方に当たる。
 
岐阜県の縫製工場で、技能実習生として働くニュンさんの場合、過労死ラインを超える長時間労働や、就労先企業の日本人によるハラスメント、言葉による暴力など、数々の問題を抱えていた。

彼女の残業の時給は500円、信じられないことだ。
 
けれどもニュンさんは、日本語能力が不十分ということもあり、また経営者から、ことあるごとに本国に返すぞと言われて、身動きが取れなかった。
 
ここでもう一度、技能実習生は転職できない、ということを思い出してほしい。
 
ニュンさんは、悩んだ末に労働組合に駆け込み、交渉の末に、何とか問題は解決した。
 
マイさんは、小さな子供のいるシングルマザーであった。子供は、故郷の父母などが見ている。
 
マイさんは、岐阜の縫製工場で働いていた。縫製工場での仕事は、経営者の暴言に耐えて、朝から夜の10時まで続く。休みは一か月に一度だけ。残業時間の時給は400円(!)であった。
 
それだけ、休みのない長時間労働をしても、家賃、水道光熱費、税金、社会保険料などを引かれると、マイさんの手元に残るのは、月に11万~12万円。

彼女はそこから、生活費を切り詰め、なんとか来日一年目に、渡航前費用の借金を返済し、現在は故郷の家族に、9万~10万円を送っているという。比喩ではなく、涙なしには読めない話だ。

しかし、ここまではまだいい。技能実習生として、ギリギリ何とか頑張っているからだ。

そうではなくて、そこから「失踪」する人々がいる。
posted by 中嶋 廣 at 08:58Comment(0)日記

今度はノンフィクション――『奴隷労働ーベトナム人技能実習生の実態ー』(2)

技能実習生の、何よりの問題は、どんな企業に受け入れられるかが、わからない点だ。これはもう、偶然に左右されるほかないのだ。
 
だから経営者が、いい人か、腹黒い人かは、蓋を開けてみないとわからない。

そして『ふたつの日本』では、労働条件に問題ありというところが、全体の7割ということだった。蓋を開けてみれば、3か所に2か所以上は、問題ありということなのだ。

「さらに、技能実習生は受け入れ企業との間で課題があっても、別の企業に転職することができない。そのため技能実習生が日本で搾取的な処遇に直面するのか、あるいはきちんと処遇してくれる受け入れ企業で働けるのかどうかは、『運まかせ』なのだ。」
 
この一連の事柄が、「奴隷労働」と呼ばれる所以なのだ。
 
とりあえず転職の自由は、早急に認めなければいけない。そこに、ある一定の条件はつけるにせよだ。
 
アジアの技能実習生たちは、日本という国を経験した結果、全体の37パーセントが、日本はよくなかった、という印象を持っているという。

来日する前は、97パーセントが、日本に対して好意的なのに、これでは、「嫌われ者・日本」という印象を、振りまいているだけではないか。

これは根本的に、アジアに対する視線を変えねばなるまい。技能実習生を雇う人たちの話ではない。「私」の視線を変えなければ、と思うのだ。

「技能実習生というアジア出身の若者たちを、一人ひとりの人間としてとらえ、彼ら彼女らが何を考え、何に困っているのか、何をしたいのか、そのことへ寄り添っていくことが求められる。外国人技能実習生は〝代替可能な外国人労働者〟ではないし、〝顔の見えない匿名の誰か〟ではない。それぞれの人生を切り開こうとする一人の個人がそこにいる。」
 
そういうことなのだ。こういう見方ができないのは、私も含めた日本人個人の、限界ともいえる。でも、そこを突破しなければ。
 
著者は、ベトナムの日本語学校を訪問する。

「その日は日本人の教師が担当する日で、学生たちが以前に習った表現を実際に話すという授業が行われていた。これから日本へ行くという学生たちは真剣そのものだった。授業を担当していた日本人教師に話を聞くと、技能実習生として日本にわたる若者たちは、とにかくよく勉強し、日本語の習得に熱心だという。」
 
それが、日本に来てみれば、低賃金・長時間労働、転職の自由がないというのでは、あまりというものだ。
 
しかも、家族のために働きにこようという段階で、ベトナムは、国家全体で搾取をしている。

「(ベトナムの場合は)仲介会社だけではなく、国営銀行もまた、債務を背負った移住労働者を生み出す構造を持つ移住産業の一翼を担っているといえる。」
 
莫大な費用を払って、日本に来るために、国営銀行が貸付を行っているのだ。
posted by 中嶋 廣 at 12:59Comment(0)日記

今度はノンフィクション――『奴隷労働ーベトナム人技能実習生の実態ー』(1)

これは『コンビニ外国人』、『知っておきたい入管法』『ふたつの日本』に、続けて読んだ本である。
 
その中では、ノンフィクションという手法もあって、もっとも衝撃力があり、ずんと重い本であった。
 
著者の巣内尚子(すない・なおこ)は、1981年生まれのフリージャーナリストで、東京学芸大卒業後、日本で就労、その後、インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者、ライターとして働く。

2015~16年、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所の客員研究員を務め、2017年、一橋大学大学院の社会学修士課程を修了する。現在はカナダ・ケベック州の、ラバル大学博士課程に在籍する。

著者紹介を長々と書いたのは、この人も、『ふたつの日本』の著者・望月優大氏と同じく、マスコミの王道ではなくて、周辺に身を置くことによって、こういう問題、つまり日本に生きる外国人の問題が、見えてきた人なのであろうか、という疑問が、湧いたからである(もっとも、「マスコミの王道」は、今では新聞・テレビから、ネットに移っているかもしれない)。

それにしても『奴隷労働』とは、凄いタイトルの本だ。「技能実習生」が置かれている状況を、これ以上、正確に述べた言葉はない。

著者は2014年から、大学院でこの問題を研究し始めた。

「30歳をすぎ、保育園に通う子どもを抱え、仕事をしながら大学院に入った。無謀だったかもしれないが、滞在したフランス、インドネシア、フィリピン、ベトナムでの経験から得た移民、移住者への関心と、ベトナム人移住労働者の置かれた状況に対する懸念、そして移住労働をめぐる課題を知った者が何もしないのはおかしいという思いが、澱(おり)のように蓄積され、ベトナムの人たちの移住労働について調べ、研究することを諦めるわけにはいかなかった。」

「澱のように蓄積され」というところ、いいですね。自分が研究せずにはおられない、もうどうしようもない、というところが、如実に出てますね。
 
そこで著者は、移住経験を持つベトナム人に、聞き取りを開始した。

一般に、ベトナム人が日本に労働者として来るだけで、渡航費用は100万円前後にもなる。しかも制度的に、ある期間が来ると、借金があろうと無かろうと、帰国しなければならない。その間、日本にいる間、転職は禁じられている。

著者は2014年から、聞き取りを開始した。2018年夏には、特に、雇用先から逃げた技能実習生に、逃げるまでの動機や、逃げるためのルート、その後の就労と生活の実態を聞いた。

そして、それがどんなに凄まじいことであるか、を知ってもらうために、この本を書いたのである。
posted by 中嶋 廣 at 10:56Comment(0)日記

立ち直っていく話――『ノースライト』

横山秀夫の長編ミステリー。これは面白い。
 
連れ合いの田中晶子は、それほど感心しなかったというが、それは脚本家という実作者と、僕のような単なる読者の違いによるだろう。その違いも面白い。
 
話の筋は単純である。
 
一級建築士の青瀬稔は、夫婦者から依頼があって、新築の家を設計するが、施主は忽然と姿を消し、空き家には、「タウトの椅子」だけが残される。タウトは、20世紀の巨匠建築家、ブルーノ・タウトのことである。
 
青瀬は探偵の役割を負い、試行錯誤しながら進んでいくわけだが、そのとき、施主から、あなたが住んでみたいと思う家にしてください、それが唯一の希望です、といわれたことが、重要なポイントになる。
 
この小説は、まず何といっても、文章がいい。程よくめりはりが効いていて、余計な装飾が一切ない。
 
そして、表に浮上してくる筋書きとは別に、青瀬は、バブルとその崩壊で、打ちのめされている。その渦中にあるときに、離婚もしている。
 
つまりこれは、酔いどれ建築士が、立ち直っていくというのが、真の筋書きである。
 
だから本当に話は単純で、内面の動きを除けば、アクションは少ない。
 
ここが、田中晶子の不満に思うところであり、僕が、息詰まる内面描写があって、好きなところである。
 
ハードボイルドという真の筋書きがわかってしまえば、離婚した女房の描写が、少々甘かろうが、姿を消した施主の依頼が、ちょっと浮世離れしてようが、僕は全然気にならない。
 
チャンドラー張りに、心を許しあった友人との「長いお別れ」、つまり死があり、ロス・マクドナルドのような、親の代までさかのぼる、因縁話もある。
 
そういうハードボイルドな話に、横山秀夫の文体はぴったりだ。

「タウトの椅子」が効果的に使われているのにも、唸った。
 
最後の、真相を解き明かす手紙も、地の文と混ぜ合わせて、実に巧みである。
 
久しぶりに、ハードボイルドの名作を読んだ。

(『ノースライト』横山秀夫、新潮社、2019年2月28日初刷)
posted by 中嶋 廣 at 11:42Comment(0)日記

これからの日本の指針――『ふたつの日本ー「移民国家」の建前と現実ー』(5)

著者は言う。外国人労働者の募集や斡旋については、民間に任せておかず、送り出し国と日本が、直接的なかたちで関与する、ということを検討すべきではないか。
 
これは一刻も早く、政府間交渉をし、技能実習生が、『日本の下層社会』や、『あゝ野麦峠』の現実から、脱出できるようにしなければならない。これは、今現在起こっていることなのだ。

「……移民を同じ人間として受け入れ、それぞれに必要な支えを提供し、誰もができるだけ『安定した生』を生きられるように努める移民政策へと転換することができるか。安価でフレキシブルな労働力という幻想を捨て、一人ひとりが経験する当たり前の現実へと目を向けることができるか。」
 
人間個人の限界は、すぐ先にある。外国人が働くのを見て、なんとなく一段高いところから、その様子を眺めていたり、経営者になったら、突然、効率よく、低賃金で、長時間働かせたりするのが、「頭のいい」経営者であったりする。
 
でもそれは、間違った思い込みだ。
 
人間が、個人を超えるところまで踏み込んで、個人を内側から拡張、改革していくのは、実はけっこう大変である。
 
自分のことを考えたって、そう思う。

『日本の下層社会』や『あゝ野麦峠』なんて、古い話で、関係ないや、と思っていると、見事に足をすくわれる。

「今、目の前にふたつの道があるーー撤退ではなく関与の方へ、周縁化ではなく包摂の方へ、そして排除ではなく連帯の方へ。これは『彼ら』の話ではない。これは『私たち』の問題である。」
 
実際、卑近な話をすれば、ここから五年以内に、日本が浮かび上がれるか、沈んでいくか、の結果がおそらく出るだろう。
 
日本の人口が急減していく話も含めて、ここから先、外国人については、日本に来てくれるか、くれないか、という話になるはずだ。

その時、私たちの態度が問題になる。
 
この本は、実に内容が豊富で、私が紹介したところは、全体のごくわずかに過ぎない。もし今年も、「新書大賞」があるとすれば、筆頭に挙げられる本である。

(『ふたつの日本ー「移民国家」の建前と現実ー』
 望月優大、講談社現代新書、2019年3月20日初刷)
posted by 中嶋 廣 at 11:11Comment(0)日記

これからの日本の指針――『ふたつの日本ー「移民国家」の建前と現実ー』(4)

「技能実習生」の問題は、深刻である。

テレビや新聞を見れば、ここ数日は、「令和元年」で踊り浮かれているようだが、国内でおおぜいが「失踪」し、秘かに日本で働き続ける「技能実習生」のことは、すぐにも表に浮上させるべき話だ。

そもそも、2017年11月に施行された技能実習法では、技能実習の目的を、こう定義していた。

「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術または知識の移転による国際協力を推進することを目的とする」
 
法律の条文なので、意味がわかりにくいが、つまりは先進国である日本から、発展途上国への、技能の移転による国際協力である。
 
外国人は、派遣された職場で、職業教育を身に着け、その技能を持ち帰り、自国の発展に生かしてもらうということである。いってみれば、ODAの位置づけに近い。
 
しかしこれは、まったくの建前、虚構である。
 
技能実習生は、表では受け入れを認めていない、低賃金の出稼ぎ労働者を、受け入れるための、方便として機能してきた。

「地方にある工場や、日本人労働者を採用しづらい重労働かつ低賃金の職場にとって、この制度は労働者を継続的に獲得して事業を維持していくために必用不可欠なシステムとなってきた。」
 
その結果、どこにいても、働く外国人を見ないことはない、という事態になった。

「実習生が特に多いのは、食品製造、機械・金属、建設、農業、繊維・衣服などの第一次及び第二次産業である。」
 
しかしもちろん、先にも述べたように、この労働環境は本当にひどいものだ。

「長時間労働、最低賃金違反、残業代の不払い、安全や衛生に関する基準を下回る職場環境、暴力やパワハラなど……」。
 
厚生労働省が、2017年に行なった、全国約6000の事業場の監督指導では、その7割以上で、労働基準法違反が認められた。

なんと、7割以上でっせ!。
 
これでは、日本の経営者は、血も涙もない人種だということになる。たぶん「経営者」になった瞬間から、十人中七人は、人格が変わって、「有能な経営者」になるのだろう。
 
技能実習生が、徹底的に弱い立場にあるのは、日本に来て、職場を自由に変われないことにある。

「通常の労働者には悪質な事業者や相性の悪い職場を去って別の職場を探すための自由があるが、実習生にはその自由がない。たまたま割り当てられた企業に残るか、帰国するかという選択になり、それ以外の選択肢がない。」
 
けれども、たとえばベトナムの技能実習生であれば、たいていは日本へ来るために、莫大な借金をしているために、帰国の選択肢も無くなってしまう。
posted by 中嶋 廣 at 10:29Comment(0)日記

これからの日本の指針――『ふたつの日本ー「移民国家」の建前と現実ー』(3)

そもそも外国人は、なぜ日本で働くことを選ぶのだろうか。そしていつまでも、その同じ民族や国民が、日本を選び続けるのだろうか。

「日本が外国人労働者に大きく門戸を開いた 1990年前後というのは、日本経済の絶頂期でもあった。発展途上国との経済格差がどんどん開き、円の価値もどんどん上がり、日本で出稼ぎ労働をすることの価値はとても大きかった。しかし、その後の平成という時代は日本経済が停滞した30年間だった。発展途上国との経済格差、賃金格差は一気に縮まっていったのである。」
 
つまり、ブラジルが成長したら、そこは打ち止めになり、中国に取って代わられる。中国が成長したら、ベトナムに代わられる。そうした経済格差をテコにした、外国人送り出し国の変遷は、どこかで飽和して限界を迎える。
 
それはそうだろう。一般に発展途上国の方が、日本よりも速いスピードで、経済成長をしているからだ。
 
いま日本では、ブラジル人や中国人は、ピーク時よりも少なく、アジアの中でも経済水準のより低い国、つまりベトナムやネパール出身の労働者が、増えているのだ。
 
さらに近年、韓国や台湾などでも、外国人労働者の獲得競争が起こっている。
 
また中国も、急激な高齢化が叫ばれ、これから外国人労働者の獲得競争に、乗り出してきそうである。

「今後も日本の経済水準の高さを暗黙の前提とし、ドアさえ開けばいつでも必要とする外国人労働者が入ってくるだろうと考えるのは楽観的に過ぎる。」
 
これは本当に、身に染みて聞くべき言葉である。
 
なぜなら、去年の7月から始まった、日系四世の受け入れが、はかばかしい進展を見せていないからである。
 
ここには、日本政府が理想とする外国人像が、集約されている。

「若くて健康、病院を利用せず、単身で家族を持たず、ある程度は日本語ができ、犯罪歴もなく、社会保障に頼らずとも自分の生計を維持でき、数年以内には自分のお金で帰国していくーーこのリストには現在の政府が理想とする外国人像が投影されているように見える。」
 
結局これでは、底辺労働者である「技能実習生」と、変わらないことになる。

「こうして『理想』の条件を提示した結果は、年間最大4000人の見込みに対して実際の入国者が半年でわずか4人だけというものだった。」
 
日本の経済水準を示していけば、いつでも大丈夫、とはいかないのである。
posted by 中嶋 廣 at 09:18Comment(0)日記

これからの日本の指針――『ふたつの日本ー「移民国家」の建前と現実ー』(2)

まず最初に、はっきりさせておくべきことがある。

「この国にも『移民』が存在し、取り組むべき『移民問題』が存在する。日本は『遅れてきた移民国家』である。建前と現実の乖離を、そろそろ終わりにするべきではないだろうか。」
 
これが著者の大前提である。
 
そのことを前提として、「今この本を手に取る市井の人々に必要なのは全体像だ。」なるほど。
 
いま政府は、人手不足に苦しむ産業界からの要請に応じて、外国人労働者を、さらに拡大して受け入れようとしている。
 
しかし一方で、政府は、馬鹿の一つ覚えのように頑なに、これは移民政策ではない、と言っている。
 
こういう建前と本音が、極端に乖離すれば、どうなるか。

どうにもならない。ただ労働力を提供する外国人が、不足していくだけである。

日本人の労働人口は、減っていくばかりなのだ。これは何とかしなければいけない、と産業界は考えた。
 
それが昨年秋の、入管法改定となって表れた。
 
それまでは、「技能実習生」という名の労働者は、最長5年の在留期間の後に、帰国させていた。その間、家族を呼び寄せることもできなかった。
 
安価な労働力だけ、持ってくればいいのだ。それ以外はいらない。定住なんて、とんでもない。5年たったら必ず帰ってくれ。
 
それが、劇的に変わった。変わらざるを得なかったのだ。
 
入管法改定の後、2019年4月に新設される「特定技能」は、ある段階まで進むと、「技能実習」や「留学」の後も、日本に残って職に就くことが可能になる。
 
それだけでなく、「特定技能」2号まで進むと、家族を呼ぶことも可能になり、さらに年数を重ねることによって、永住権の取得も可能になってくる。
 
しかしこれは、まだ絵に描いた餅である。
 
日本政府は長らく、外国人労働者を、「いわゆる単純労働者」と、「専門的・技術的分野の外国人」に二分し、そのうえで、前者は受け入れずに、後者だけを受け入れる、というスタンスでやってきた。
 
これはもちろん建前であって、本音は全く違う。現実には、「専門的・技術的分野の外国人」は、2割に過ぎない。
 
実際には、技能実習生や留学生などが、事実上の労働者として、低賃金、非熟練の職に就き、日本の「非正規労働市場」の一部を構成してきたのだ。

「技能実習生に至っては、最低賃金違反などの悪質な事例も数多く指摘されており、非正規雇用の中でもより一層下位のレイヤーへと組み込まれている。」
 
技能実習生の問題は、深刻極まりなく、そして緊急を要する。
posted by 中嶋 廣 at 08:53Comment(0)日記

これからの日本の指針――『ふたつの日本ー「移民国家」の建前と現実ー』(1)

これは『コンビニ外国人』、『知っておきたい入管法ー増える外国人と共生できるかー』に続けて読んだ本である。

『コンビニ外国人』は、全体の流れを理解するには役に立つが、2018年秋の入管法改正前の刊行なので、話が少しずれている。

『知っておきたい入管法』は、入管法改正以後の本で、それを含み込んで書いている。しかしこれは、どちらかといえば、外国人を取り締まる側の本なので、現実を見れば、絵に描いた餅のところがあり、ちぐはぐなところもある。

その点では、『ふたつの日本』が、もっとも現実を抉り、先の見通しも正確であるとおもわれる。そもそも、「『移民国家』の建前と現実」という、サブタイトルにしてからが、当たり前のことではあるが、現実を直視している。

著者の望月優大(もちづき・ひろき)氏は1985年生まれ、日本の移民文化・移民事情を伝える、ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の編集長を務めている。

もともとは東大の大学院修士課程を出て、経済産業省に勤め、その後グーグル、スマートニュースなどを経て、2017年に独立。移民・難民問題を中心に取材し、「現代ビジネス」や「ニューズウィーク日本版」など、雑誌やウェブ媒体に寄稿している。株式会社コモンセンスの代表を務め、非営利団体等の支援にも携わっている。

こういう、現代の第一線で活躍しているらしい人の略歴を見ると、「東大大学院を出て経済産業省」以外は、どういうふうに食っていけてるのか、ほとんどわからない。実に興味がある。

それはともかく、まず読んでみよう。

2018年末の臨時国会で、新たな在留資格である「特定技能」の創設が決まった。これについては、後で詳しく見ていくが、これによって、日本で働く外国人は、ますます増えてゆくに違いないと思われる。

けれども、肝心の私たちの「視線」は、今も大して変わっていない。

「大きく変化した現実に対して、私たちの感覚は追いつけていない。」
 
著者は、そう言う。なぜか。

「日本では長らく『移民』という言葉自体がタブー視されてきた。……今でもなお政府は『移民』という言葉を意図的に避け、まるで日本が一つの巨大な人材会社でもあるかのように、労働者たちを『外国人材』と呼んでいる。日本にはいまだに移民や外国人の支援や社会統合を専門とする省庁も存在しない。」
 
そこでこの本で、私たちを覚醒し、外国人のいる日本の風景を、というよりも、その風景を見る私たちの「視線」を、変えてしまおうというのが、著者の目論見である。
posted by 中嶋 廣 at 15:58Comment(0)日記