JAが職員に課しているノルマは、共済商品の他にもたくさんあって、それを読んでいくと嘔吐しそうになる(この本を読んだ後、JAグループに就職しようという人間はいないだろう)。
どんなノルマがあるか。
「信用事業では、年金口座の開設や貯金の獲得、投資信託の販売など。
経済事業では、ジュースや茶、JA全農が扱う通念のカタログギフト『旬鮮倶楽部』の販売など。」
それはまだまだある。著者がかつて勤めていた、JAグループが発行する『日本農業新聞』と、「家の光協会」が発行する3誌、つまり『家の光』と『地上』(JAの役職員向け)、『ちゃぐりん』(小学生向け)である。
JAは職員に、3誌の中から購読する雑誌を選ばせている。ただJAによっては、職員に複数部を割り当て、中には10部の購読ノルマを課しているところもある。
「そうしたJAの職員の一人が私の取材に、『何部もあっても仕方ないので、みんなすぐに捨ててしまう。だから、みんなで『ごみの光』と揶揄しています』と辛辣に語ったことがある。」
物品販売のノルマから、『ごみ(!)の光』まで、年間では相当の持ち出しになる。これでは家計を苦しめるだけだし、家庭内不和の原因にもなる、という話もよく聞いた。
JA対馬は支店ごとに、貯金獲得のノルマを課していた。金融機関としての大きさを、貯金額で示したかったのである。
西山はこれを楽々とこなした。共済事業で自然災害の被害を捏造することで、上対馬支店の借名口座と借用口座に、巨額の金が入ってきたからである。
また貯金残高のノルマを達成できない職員には、西山が管理する口座から、その職員の口座に、必要な額を期日までに振り込んでいた。
取材先の1人が明かす。
「職員自身の貯金もノルマにカウントされるけんね。たとえば、西山の口座から一二月二五日に、三〇〇〇万円がボンッて感じで、職員の口座に入ってくる。年が明けて数日したら、今度はその職員の口座から三〇〇〇万円が西山の口座に戻される。要は年末の一瞬だけでも目標額に達したら、ノルマとしてカウントされるから、そうしてるだけ。」
もうどうしようもない。しかもこれも驚くべきことに、支店が暗黙のうちに認めたやり方なのである。
それなら、死んだ西山一人がやっていた訳ではあるまい。今でも毎年、JAのどこかでやっているだろう。
西山は購買事業においても、凄まじい実績を上げた。共済の払戻金を原資にした、そのやり方を細かく上げることはしないが、しかし長年にわたる不正の手口を、JAの組織が気づかないはずはない。
「JA対馬の関係者が続ける。
『農協としても、西山の不正に薄々気づいてはいた。ただ、対馬農協には被害がないし、西山はノルマをこなしてくれる。だから誰も口に出さんかったのよ』」
特定の被害者のいない犯罪、これが西山の犯罪行為の意味だから、みんな見て見ぬふりをし、そして犯罪に加担して行ったのである。
たとえば、借名口座や借用口座を利用した共済絡みの金を、西山が不正に引き出す際には、一部の職員たちが出金伝票を代筆した。口座の名義人ごとに、代筆する職員が割り振られていた。完全な集団犯罪である。
そして職員が通帳・印鑑を預かる借用口座は、いまだに他のJAでも横行している、と著者は言う。
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