JAの本業である農業関連事業が、北海道を除く全国で9割の赤字であれば、その穴埋めをするのは共済事業と信用事業、つまり金融事業である。
共済事業はノルマを達成すれば、JA共済連から「付加収入」という手数料が入る。そして付加収入は、保有契約よりも新規契約の方が高額である。つまり新しい契約を取った方が、ノルマのポイントが高くなる。
「西山が顧客に無断で契約した共済をいったん解約して新たに契約し直したり、転換させたりすることを繰り返してきた理由もそこにある。」
これも、かんぽ生命で多く見られた、年寄りを騙す手口だ。
またJA対馬は職員に対しても、過酷なノルマを課した。
しかしJA対馬で「自爆営業」をしていた職員は、皆無に等しい、と著者は言う。なぜか。
「西山が獲得してきた圧倒的な実績を、無償で分割譲渡してくれたからである。今回の事件に詳しい人物は、『ノルマを達成できないのは、だいたいが若手。自分が獲得した契約を主に若手にあげてきた』と教えてくれた。」
西山はまた、自身が勤める上対馬支店以外の職員にも、実績を無償で譲渡してきた。
「各地のJAと同じように、JA対馬もまた、支店ごとにノルマを割り当てている。支店のノルマを達成する責任は、当然ながら支店長に負わされる。上対馬支店以外の複数の支店長が西山に泣きつき、実績の一部を譲ってくれるように懇願することがたびたびあった。」
対馬一国をわが手に収める「西山帝国」が、だんだん出来てくるようだが、しかしそもそも西山は、なぜ契約実績を、無償で譲渡するようなことをしたのか。
そこに、西山の深謀遠慮があった。
「今回の事件に詳しい人物がこう説明する。『ほかの職員を言いなりにさせられるからですよ。実績を無償であげてしまうことで、職場で自分が不正をしやすい環境をだんだんと作っていった。そうして誰も西山に口を出せなくなったとき、彼は神様みたいな存在になったんです』」
この神様のような存在を、さらに分かりやすく言い換える。
「JAの職員にとって、ノルマと自爆営業は経済的な負担であるだけではない。組織や上司からノルマをこなすよう日常的に圧力をかけられるため、心身を苛むものである。
しかもノルマは毎年必ず襲ってくるという点で、JAに勤めている限り終わることのない苦しみだ。
JA対馬の職員にとって、西山はその苦しみから解放してくれる救い主のような存在であった。」
これでは、一度「西山軍団」に入った人間は、蟻地獄のようになる。
しかも美味しい蜜まで用意されていた。
「LA〔=ライフアドバイザー〕であれば、西山から実績を譲り受けることで、JA共済連から表彰まで受けた。西山軍団に入っていたLAの多くは、その表彰のおかげで、JA共済連から研修という名の海外旅行の褒賞を与えられてきたという証言がいくつもある。」
「軍団」から抜けるどころではない。こういう不正を、過去にさかのぼって糾していくことは、ほとんど不可能である。
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