JAの金融事業は、全国的に見れば職員による横領や詐欺が、後を絶たない。全国に共通する「腐敗の構造」が確かに存在する、と著者は言う。
「私は過去の仕事で、JAにおいて一連の不祥事件が起きる要因に、共済商品の営業において過大なノルマがあることをつまびらかにしてきた。すなわち職員はノルマをこなすために、自分や家族が不必要な契約を結ぶ『自爆』と呼ぶ営業を強いられている。」
過大なノルマと言えば、「かんぽ生命」を思い浮かべる。
地方では、郵便局の人間は顔見知りであり、悪いことをするはずがない、と思われている。年寄りは言われるがままに、担当者の営業成績のためだけに、保険の付け替えをしていたのである。
もちろんその前に、自らの「自爆」があって、「かんぽ」の職員も、抜き差しならないところに追い込まれている。
JA共済の職員も、まったく同じである。
「一部の職員は、自爆による経済的な損失を取り戻したいという気持ちも手伝って、詐欺や横領に手を染めてしまう。
あるいは自爆による経済的な負担を減らすために、顧客を騙して、不利益となる契約をあえて勧めることも横行している。」
そうしないと、ノルマが達成できない。
ただ西山だけは、ノルマなどまったく問題にしていない。彼は、JAグループが抱える組織の弱点や問題点を、見つけていたのではないか。それが著者の考えである。
ここに、西山の遺族とJAの間で争っている、長崎地方裁判所の裁判記録がある。
「そこには、西山が架空の契約を作っていたことも書かれていた。一年間で何百とか何千とかいう契約を捏造することは、事務的な処理をする量だけを取っても、とても一人でできるはずもないことは容易に想像がつく。しかも、西山は長年にわたってそんな莫大な実績を挙げ続けてきたのである。」
それを誰も問題にせず、異常さに気づかない、という方が、実は異常なのではないか。
西山の葬儀は、対馬でも最大規模だった。JA対馬は、100万円近い香典を出している。他の参列者からの香典は、680件に及んだ。
この当時、JA対馬の職員数は正職員、嘱託、臨時職員を含めても、80人程度だった。ほかはJA共済連をはじめとする、JAグループの関連団体、地元の企業、取引先の業者、そして組合員である。西山が仕事を通じて、人望と信頼をどれほど得てきたかが分かる。
「JA対馬の役職員たちは、日本一のLAだった故人の過去の偉業を称えた。
〈西山のおかげで何年も職員の給料が出た〉
〔中略〕JA対馬の縫田組合長は葬儀でこう話した。参列したJA対馬の関係者からも、私は同様の証言を得た。」
これはすごい話である。ここから何らかのボロが明るみに出る、ということを気にしてはいない、麻痺している。しかもこれは、発言者が実名であることに注意されたい。
葬儀から10日もしないうちに、事態はたちまち変わった。西山の受け持っていた共済契約者たち10人から、通帳や印鑑を西山に預けたりはしていないし、また共済証書を受け取ったりもしていない、という問い合わせが上対馬支店にあった。
この記事へのトラックバック
この記事へのコメント