ほとんど奇跡だ――『社会の変え方―日本の政治をあきらめていたすべての人へ―』(泉房穂)(6)

どの政治家も、なぜかやろうとしない方法がある、と泉さんは言う。子どもを中心に、本や遊び場に力を入れると、経済が動き出すということである。

「子育ての『負担』と『不安』を軽減する。『安心』を提供する。安心なまちには人が集まり、経済もまちも元気になる。図書館で浮いた本代や、遊び場に払わずに済んだ余裕で、誕生日に家族で外食してもらえれば、商店街にもお金が落ちる。」
 
子どもに手を差し伸べると、地域の経済が回りだす、と泉さんは言う。

「市民の側から普通に考えれば分かることです。それでもなぜか、どの政治家もやろうとしなかったのです。」
 
これは政治家だけの話ではない。地方自治に携わっている役人、経済学者、経済・経営コンサルタント以下、諸々の人が、寄ってたかって知恵を出し合いながら、だれ一人、こういうふうにやってみたら、とは言わなかったものだ。
 
これはたんに泉房穂のアイディア、思いつきに留めておかずに、「地方自治体学」として早急に理論化し、公開すべきことだ。
 
ところで初めの方で、〈5つの無料化〉の中に、「おむつ定期便(0才児見守り訪問)」というのがあったことを、覚えているだろうか。
 
子育て経験のある職員が、0才児がいる家庭を月1回訪問して、おむつやミルク、離乳食などを届ける制度である。
 
私は、これは事情のある家庭以外は、必要ないんじゃないか、と思っていた。
 
しかし泉さんは、そうではないと言う。

「児童虐待で亡くなる子どもの半数は0才児です。
 おむつはあくまで『きっかけ』。訪問先で不安や悩みを聞き、子どもが生まれたばかりの親を『孤立させない』ことが大きな目的なのです。」
 
ここまでは、誰もが考えそうなことだ。泉さんの冴えは、その先にある。

「〔親の〕孤立を防ぐ。その目的を果たすために、物理的にいい点がおむつにはあるのです。
 答えは『かさばる』ことです。
 玄関のドアのチェーンロックを外さないと、おむつを受け取れません。チェーンロックを外してもらえれば、玄関のドアが大きく開きます。反対にチェーンロックをしたままだと、わずか5センチぐらいしか開きません。」
 
なるほど、そういうことか。
 
これは全国区のニュースで、2014年に、児童相談所の職員が家庭訪問したところ、子どもは亡くなっているのに、人形に布団をかぶせて、ごまかしていたケースがあった。
 
明石市でも、生存が把握できない子どもが、実際にいた。

職員に、どうしてそんなことになるのか、と聞くと、「家の奥にいるみたいだが、ドアを開けてもらえない」との答え。これには我慢ならなかった。

「それを『はい』で済ますんかい! 窓ガラスかち割ってでも確認するからな!」。
 
いかにも関西、よしもと風、地が出てますなあ。

「思わず言葉を荒げてしまいましたが、なんとしてでも子どもの安全を確認するのが当然の役割です。冷たい社会を変えるために市長になったのです。誰も置き去りにせず、すべての子どもに100%会うのが当然のこと」。
 
この最後のことを、徹底してやれるかどうか。市職員の、やったつもりの事なかれ主義では、なにも解決できないのだ。

「子どもを守る現場には厳しい現実があります。弁護士時代にも、人間のどろどろしたリアリティを何度も経験してきました。」
 
だからこそ、「おむつ定期便」の見守り支援は、絶対に必要なことなのである。泉さんはそう考えている。

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