「第6章 インドの中立外交」と「第7章 日印関係」は、中公新書にしては、よく書いたと思う。普通は本の寿命を考えると、さわりだけにするか、あるいはまったく書かないものだ。
インドの外交など一朝一夕で変わるだろう。特に中国との関係は、相手がごり押ししてくるから、武力衝突も、これまでにもあったし、これからもあるだろう。
この辺は著者と編集者で、どういう話し合いをしたのだろう。非常に興味がある。
「日印関係」も時々刻々変わっていく。これも当然のことだ。
たぶん第6章、第7章は、著者が書きたかったことだろうが、本の寿命は、この章があるため、極端に短くなった。
なおこの本のサブタイトル、「グローバル・サウスの超大国」は付け焼刃だと、著者自身が言っている。国際会議があるたびに、「インドはグローバル・サウスの盟主である」と言っても、諸外国の関心を、それほどは呼ばない。
これはモディ首相が、慌てて付け加えたらしい。対外国というよりは、国内向けではないかな。
この章の最後に著者は、こういうことを付け加えている。
「2024年にはG20の議長国がブラジルに移ることになるが、インドが現在と同じように『グローバル・サウス』の代表として第三勢力の立場を強めていくのかどうかを判断するのは、現時点では時期尚早と考えられる。」
副題には付したけれど、怪しいという。まことに正直なものだ。
最初は「インド株って何だろう」という、邪まな興味から手に取った本だが、相手が大きすぎて、新書の範囲では覆いきれなかったようだ。しかし何が問題になっているか、という点はだいたい分かった。分かったような気がする。
14億の民が、大気汚染と飲料水に苦しんでいるときに、この国の株で財産をこしらえる気には、とてもなれない。
もちろん真逆の姿勢もある。わずかばかりでも出資することで、インドの近代化を少しでも推進したい、という立場もある。ただ私は、そう言う気にはなれない、ということだ。
それとは別に、新NISAについて疑問がある。これは誰でも持つ疑問だと思うが、不思議なことに、公けには誰も言わない。
それはこういうことだ。新NISAで株や投資信託を買っても、それで儲けた分については、税金が全くかからない。これは国民の格差を広げることにならないか。
もちろん損をすることもあるのだから、それは自己責任である。しかし戦後70余年を経てみると、リーマンショックのようなことはあるが、それも含めて長い目で見れば、資本は自己増殖していて、その富は、額に汗して働くよりも大きい。
持っているものはますます増え、余剰のない者はいつまでもそこにとどまる。現在の段階でも、中間層は瘦せ細ってきたが、結果としてそれが、より極端になっていくのではないか。
もう一つの疑問は、新NISAで儲かった場合、政治家・役人が、なぜ税金を取らないかである。株にかかる通常の20%では、新NISAの意味がなかろうが、たとえ10%あるいは5%でも、取ろうとしないのはなぜか。
どんなところからでも、商行為があれば税金を取ろうとするが、新NISAに限っては大盤振る舞い、というより底が抜けている。
上限1800万は呼び水、これで日本人が投資に熱を上げてくれれば、というつもりなのか。政治家あるいは財務省の、腹の中が分からない。
誰か、『ようやくわかった、新NISAのからくり』という本を、書いてはくれないか。
(『インド―グローバル・サウスの超大国―』
近藤正規、中公新書、2023年9月25日初刷)
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