世界の見方が変わる――『サイレント・アース―昆虫たちの「沈黙の春」―』(4)

今や未来は不確かなものになった、と著者は言う。現代文明が、ここにきて明らかに崩壊し始めた兆候がある、と言う。
 
地球上の富を無制限に濫費すれば、いずれは枯渇することになる。これは明らかである。

「私たちは文明、そして政治家たちを夢中にした経済成長が健全な環境の上に成り立っているという事実を見失っていたのだ。ミツバチ、土壌、糞虫、ミミズ、きれいな水と空気がなければ、食料を生産できず、食料がなければ経済もない。」
 
これは根本的な、文明の価値の転換なのだが、私たちは、これを受け入れることができるだろうか。
 
1992年に、世界中の1700人の科学者たちが、「人類への警告」を発表した。

「人間は生存に欠かせない土壌を浸食し、劣化させているうえ、オゾン層を破壊し、大気を汚し、多雨林を伐採し、海で乱獲し、酸性雨をもたらし、海洋に汚染された『死の領域』をつくり、空前のスピードで種を絶滅させ、貴重な地下水資源を枯渇させてきた」。
 
だから大惨事を避けたいなら、地球と、そこに住む生命とのつきあい方を、大きく変えなければならない。今から30年前に、この警告は出されている。

「温室効果ガスの排出量の削減、化石燃料の段階的な使用停止、森林伐採の削減に取り組まなければならないほか、生物多様性が崩壊しつつある傾向を逆転させる必要もある。」
 
けれども各国の政府も、大多数の人間も、この警告に耳を貸そうとしなかった。

92年と言えば、法蔵館で『季刊仏教』を編集していたころだ。「環境問題」は、この雑誌にはもってこいだった。

そのころ、養老孟司先生に連載をお願いしていたから、環境問題についても、話を聞いていたに違いない。養老先生は、今では環境問題が一番大きい、とおっしゃっていたはずだ。でも私には記憶がない。凡庸な編集者とはこんなものだ。
 
環境問題の根本原因は、資本主義制度にある、と著者は言う。

「巨大な多国籍企業が、政治家や、さらには国家全体さえもはるかに凌駕する大きな力を集めることを許し、人間や環境が負う代償を顧みることなく利益を最大化するように世界を形成したというのだ。」
 
この方向で走ってきた文明が、急に方向を転換することができるだろうか。

「まだ手遅れではない」と著者は言う。将来の子孫を思い、真剣に考えを変えるべきなのだ。そうすれば、違う未来が見えてくる。

「昆虫は食物連鎖の底辺近くに位置していることから、昆虫の回復は鳥やコウモリ、爬虫類、両生類などの個体数が回復する礎となる。人間がおびただしい数の大小さまざまなほかの生き物とともに生きる、活気と緑に満ちた持続可能な未来に、手が届くようになるのだ。」
 
大半の昆虫が絶滅するのと、人間が考えを改めるのと、どちらが早いか。結局はそういうことだろう。
 
話は違うが、このところ同性婚について、岸田首相が、こんなことをすれば、社会が変わってしまう、と述べている。それに対して、革新系の人たちは、同性婚を認めても、異性婚をしている人たちには、何の変化もないと言っている。
 
何というか、「バカ」に合わせるには、これも方便だが、本当はこれではだめなのだ。

私たちが同性婚を認めることは、実は世界がほんの少し変わることであり、動物と共存できれば、世界は90度変わることになる。さらに昆虫とも共存できるようになれば、世界は180度変わることになるのだ。
 
そういうことができるかどうか。この方向に努力しなければいけない、と思いつつ、しかし私には自信がない、というか、はっきりしたヴィジョンを描くことができない。

(『サイレント・アース―昆虫たちの「沈黙の春」―』デイヴ・グールソン、
 藤原多伽夫・訳、NHK出版、2022年8月30日初刷、9月30日第2刷)

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