フェミニズム小説なんかじゃない――『別の人』(5)

第二部11章の見出しは、またも「スジン」。ここでは、レイプについて掘り下げる。
 
スジンは、別の女たちがレイプされた後、どうしているか、何を感じているか、知りたかった。被害者の集まりや相談所に出ていくのは、アンジンが狭い町であることを考えると、噂になりそうで危険だった。
 
スジンが知りたかったのは、以下のような事柄だ。

「それで、どうでしたか? あなたたちはどんな気持ちでしたか? 私みたいに惨めですか? 悪夢を見ますか? 私みたいに自分が虫けらのような感じがしますか?」
 
それが導入部で、そこからさらに掘り下げる。

「最も知りたかったのは罪悪感だった。
 自分は何も悪いことをしていないのに、なぜ、何か過ちを犯した気がするんでしょうか? 子供を堕したからでしょうか? でも、あれは本当に子供だったのでしょうか。自分が望まない状況で、望まないやり方で生じた細胞を、必ずしも子供と呼ばなくてはいけないのでしょうか? 私は? 私の人生は? 私の身体は? あなたたちはどうですか?」
 
しかしどれほど捜してみても、ネットには何の答えも出ていなかった。
 
スジンは大学に入って、ただ一度だけ酒を飲み、そのままドンヒと一緒にホテルに入った。それからあとは、ドンヒの言葉によれば、スジンから挑んでいったという。
 
しかし朝起きて、スジンはまったく覚えてなかった。

「『なかったことにして』
 彼はベッドに腰を下ろし、靴下を履きながら言った。
『そうだな、酒を飲んで一緒に失敗した。忘れちまおうぜ。酒のせいさ』
〔中略〕何も起きていない。私は何もされなかった。私は、被害者じゃない。誰もこのことは知らなくていい。ミスったんだ。そう。私はミスを犯した。」
 
そしてそのミスは、彼女の深いところで傷になり、決して消えることはなかった。
 
そもそもレイプは、女性が強い拒絶の意志を示したときにのみ、立証された。女性が殴られ、叫びを上げ、脅され、命の危険を感じたときにのみ、レイプと呼ばれた。だからスジンが経験したことは、レイプではなかった。
 
しかしスジンは、ドンヒとの性交を望んだことはなかった。スジンにとって、レイプは単純だった。「被害者が望んでいない時に持たれた性関係」。
 
しかしスジンは酒に酔い、意識を失い、何もできない状態で、性交をした。

「スジンの場合は準強姦に該当した。準。よりによってこの単語の前に『準』という語がつくのか?」
 
自分の未来や、祖母のことを考えれば、ドンヒを告発することはできなかった。
 
そして妊娠した。初めは膣の内側の痛みが、3週間以上続いた。病院に行くと、膣の内部が損傷し、炎症を起こしているので、エコーを撮った。そして妊娠がわかり、手術をした。

「手術の後も、スジンはずっと病院に行った。痛かったからだ。病院には外科的に何の異常もないと追い返された。鎮痛剤だけ処方された。それでもスジンはずっと痛みを感じていた。下半身が攣るような、子宮の中で小さな肉片が剝がれていくような痛みを感じていた。下半身が完全になくなってしまったような、ボロボロになってぶら下がっているような感覚。体が、引き裂かれた紙みたいになった気分。」
 
ここは男の私が読んでいても、どうにも発する言葉がない。ドンヒを告発しようとは思わないし、してもしょうがないだろう。ただ女と男は、性交ということについて、対等の関係にはない、もっと言えば、非対称であると、そんなことしか浮かんでこない。

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