冒険家・探検家、高野秀行の旧ソマリア紀行。これは飛び切り面白いし、考えさせる。
旧ソマリアはアフリカの東端、「アフリカの角」と呼ばれる所にあって、紅海を隔てて、イエメンやサウジアラビアと向かい合っている、と言えば見当がつくだろうか。
「ソマリ人」はおもに5つの大きな「氏族」に分かれ、旧ソマリアのほかケニア、エチオピア、ジブチにまたがって暮らしている。
旧ソマリアは「氏族」ごとに、団結と分裂を繰り返し、高野秀行が滞在した2010年前後は、数多の武装勢力や自称国家、自称政府が群雄割拠していた。
旧ソマリアは大まかに北の方から、「ソマリランド」、「プントランド」、「南部ソマリア」に分割されていた。
ソマリアは報道によれば、内戦というよりは無政府状態が続き、「崩壊国家」という名称で呼ばれている。
ところが、そんな崩壊国家の一角に、10数年も平和を維持し、武器は携帯せず、政党政治により首相が交代する国があるという。それがソマリランドだ。高野秀行でなくとも、ほんとかね、と眉に唾をつけたくなる。
高野はこれを、「天空の城ラピュタ」に例える。そして「『謎』や『未知』が三度の飯より好きな私の食欲をそそらないわけがない」と、ソマリランドの首都ハルゲイサに入るのである。
ここまで、要約すればそういうことだが、冒険紀行ものだから、謎の国ソマリランドに行くだけでも、大変である。早い話が、例えばビザを取る必要があるのか、仮に必要だとして、それをどこで取るのか。一事が万事そういうことで四苦八苦するが、それは本を見てほしい。
ソマリランドの首都ハルゲイサに着いて驚くのは、そこにいる人たちは、あらゆることに「超速」であることだ。一般にアフリカの人たちは、時間にルーズでのんびりしているが、ソマリ人たちはまるで違う。
最初にホテルに着いたとき。
「清潔さ、接客、設備のどれをとっても、世界的に見て〝中の上〟もしくは〝上の下〟クラスレベルである。それだけでも驚くのに、従業員の対応が素早い。フロントに頼めば、瞬時に無線LANのネット回線をつないでくれたし、レストランのウェイターもてきぱきとしていて、呼ぶと『イエス!』と小走りで飛んでくる。日本以外で食堂内を走るウェイターなどめったにお目にかかれない。」
万事この調子で、サイードという名の大統領スポークスマンは、高野が電話で自己紹介を始めると、「最後まで訊こうともせず『わかった。今すぐ行く』と瞬間的に電話が切れ、その十分後には本人がホテルに姿を現した。政府の要人がアポもとらず、十分で会えるとは驚異の一言だ。」
同じ日の夕方、サイード翁が再び来襲し、有無を言わさず旅のスケジュールを決めていった。
高野はもちろん、自力で旅をするつもりだったが、「洪水のようなじいさんの勢いを遮ることができない」、結局これで行くしかない。
このとき通訳のワイヤップを紹介される。彼は52歳で、ソマリランド政府情報省に所属しているが、最近までフリーランスで活躍してきた熟練のジャーナリストで、ソマリア全体を通して屈指の情報通であった。
高野秀行は結局、この人を通じてソマリランドを知り、プントランド、南部ソマリアを知ることになる。
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