これは藤井聡太が中学生のときの記録である。
この本も『漱石先生』と同じく謎が残る。誰が書いたかわからないのである。
『漱石先生』は、書き手が寺田寅彦であることはわかっていた。しかし編纂者がわからない。
今度の本は、編纂者は一応、日本将棋連盟の書籍編集部である。しかし書き手が匿名で、わからないのである。
たぶん将棋雑誌の引用記事や、書き下ろし、インタビュアーが入り混じって、いちいち書き留めていられなかったのだろう。
しかしこういう記事は、個別に書き手を特定しておいた方がいい。どこに宝石の原石があるやもしれない。
ということを前提にして本文を見てゆくと、これはなかなか巧みな構成である。
第1章 藤井聡太 炎の七番勝負と公式戦29連勝
これはデータと短評を記した、日誌ふうの記録。
第2章 藤井聡太インタビュー
七番勝負と公式戦29連勝の頃を振り返ってのインタビュー。
第3章 炎の七番勝負第7局自戦記 藤井聡太
わざわざ炎の7番勝負の第7局だけをクローズアップして、自戦記を載せている。これは相手が羽生だから。このとき羽生は3冠を保持しており、まさか現役の中学生に敗れるとは、本人も周りも思わなかったろう。
第4章 羽生善治が見た藤井聡太 羽生善治三冠
ここではわざわざ「藤井聡太四段との対戦を振り返って」という小見出しが付されている。羽生が藤井をどう見ているか、これはぜひ知りたい。
第5章 炎の七番勝負第1局~第6局自戦記 藤井聡太
第6章 藤井聡太四段と対戦して――対局者のコメント
自戦記があって、対局者のコメントがついている。これは一局の将棋をどう見ているか、というズレを見るのに一番いい。そしてここが、もっとも面白い。
第7章 炎の七番勝負を振り返って
炎の七番勝負企画者 鈴木大介九段
アベマTVはインターネットテレビで、放映を始めて間がなく、認知度は低かった。そこでこの企画を売り込んだ者がいたのだ。鈴木大介九段の功績ははかり知れないとはいえ、藤井聡太がもし一勝もできなかったらと思うと、夜も眠れなかったろう。
第8章 藤井の七番勝負を見て 師匠 杉本昌隆七段
杉本七段はさすがに師匠だけあって、よく見ている。大胆な受けで相手に攻めさせ、一手で体を入れ替え鮮やかに勝つ。こういうパターンが大変多くなっているとのこと。
第9章 公式戦29連勝の軌跡
プロとしての始まりであり、連勝の始まりでもある加藤一二三九段戦、20連勝目の近藤誠也五段戦、そして29勝目の増田康宏四段戦の棋譜と短評を収める。
本全体として非常にバランスがいい。何度でも読めるし、記録としても長く残したい。
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