あの人の噂――「燃えよ、棋士たち! 将棋特集2021――『週刊文春』12月31日/1月7日」(2)

「勝負師の妻が明かす『棋士の素顔』」は、桐山清澄九段(73)と一子さん(66)夫妻、それに飯島栄治七段(41)と妻の麻也子さん(39)を取り上げる。
 
この組み合わせは、なかなかのものだ。桐山九段などといっても、古くからのファンしか記憶にとどめない。しかしもちろん、往年のA級棋士は、昔は素晴らしい活躍だった。「いぶし銀」というのが、ぴったりだった。
 
飯島七段も、升田幸三賞をもらった理論派だけど、一般には、というのは将棋ファン以外には、ほとんど知られてない。
 
でもこの特集ページは面白かった。棋士という商売は、安定して戦うためには、夫婦で立ち向かうことが必要なのだ。藤井二冠のような若い人を除いて、例えば上位の棋士で独身というのは、いないんじゃないか。
 
飯島七段の妻の麻也子さんが、「栄治君」と呼ぶのもおかしかった、というよりも、興味深かった。将棋指しは夫婦で闘うけれども、個人においてはしっかりと自立しているようだ。
 
それは最後の阿川佐和子の対談で、渡辺名人の妻、伊奈めぐみさんの態度にも出ている。
 
しかしその前に、4人の作家が書いているページがある。この中で、柚月裕子、塩田武士、朝吹真理子は、一生懸命に書いているが、いずれも凡庸。

葉真中顕の、将棋を指していると、脳の汁がドバドバ出るという話が面白い。「文学賞獲ったときよりも、将棋でアツい勝負に勝ったときのほうが汁が出る。逆に負けたとき、特に悔しい負け方をしたときは、脳が渇く。汁を、汁をくれと、渇いた脳があえぐようにうねうねと蠕動するのがわかる。」
 
この人、将棋の才能があるんじゃないか。人と比べてどうこうではなく、明らかに将棋の才能としか言いようがないものが、体の中を流れている。小説家ということだが、試しに一つ読んでみようか、と思わせる。
 
最後の「阿川佐和子のこの人に会いたい」は、渡辺明名人と妻の伊奈めぐみさんが登場。めぐみさんは、「将棋の渡辺くん」の漫画家として大ブレーク中だ。そしてこの大ヒットは、藤井聡太さんのお陰だと、夫婦で声をそろえて言う。
 
めぐみさんは渡辺名人のことを、この人は情緒が安定しているというけれど、めぐみさんもまったく同じように、自分を客観視できる。その意味では、夫婦の貫目が、見事に同じ水準にある。ほんとうに夫婦は貫目が大事だという、車谷長吉の言葉を嚙み締めている。
 
伊奈めぐみさんと渡辺名人とは、同じ地平に立っていて、たぶん渡辺名人は、妻を改まって呼ぶときには、「伊奈めぐみ」と呼んでいると思う。それは世間で、夫婦別姓がどうのこうのということには、関係がない。
 
しかしともかく、渡辺明が藤井聡太とどう闘うかは興味深い。はっきり言って、今の段階では、圧倒的に不利である。それは渡辺明が十分に知っていることだ。

しかし、何か考えるはずだ。そのことのために、ただそのことだけのために、これからの将棋は見る価値がある。

(「燃えよ、棋士たち! 将棋特集2021――『週刊文春』12月31日/1月7日」)

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