よくできたシノプシス――『半沢直樹――アルルカンと道化師』

非常によくできたシノプシス。それ以外に言いようがない。
 
池井戸潤は以前、『果つる底なき』と『空飛ぶタイヤ』を読んで、どちらもまあ面白かった。それでも、すぐにテレビドラマの原作になるようなのは、敬遠したい。
 
しかし女房と一緒に、八幡山の啓文堂に、杖を突いていくときはたまにしかないから、ついあれもこれもと買い漁ってしまう。
 
池井戸潤は変わってしまった。日本の中で、渡辺淳⼀、西村京太郎と並んで、三大シノプシス作家だ。

ちなみに渡辺淳⼀も、初期には優れたものを書いていた。原稿を持ち込んで、筑摩書房まで来たことがあるといっていた。僕が入社する何年も前だ。
 
シノプシスには違いないが、しかしよくできているので、解説だけはしておこう。アルルカンは欧米の道化役者のこと。「ずる賢いアルルカンと純粋なピエロと対比は、画家たちが好んで取り上げるテーマの一つになっている」ということだ。
 
東京中央銀行の大阪西支店融資課長、半沢直樹は、老舗の仙波工藝社の業績がダウンしているので、その融資に骨を折っている。すると大手のIT企業、ジャッカルが、M&Aで仙波工藝社を買収したいという。
 
ジャッカルの社長、田沼時矢は、アルルカンを描いた仁科譲の、熱心なコレクターであり、その仁科は昔、仙波工藝社に在籍していた。
 
仁科譲は、そのころ佐伯陽彦という同僚と、仲が良かったが、佐伯は病弱で故郷で亡くなっており、仁科譲は謎の自殺を遂げている。
 
この2人の謎を解いて、ジャッカルの田沼社長の狙いに迫る、というのが物語の骨格で、途中、銀行の上役や同僚とスッタモンダがある。
 
こう書けば、そこそこのミステリーでよくできているようだが、肝心の人物がまったく書けていない。半沢の女房役など、テレビの方がずっといい。
 
池井戸潤は、テレビドラマに脚色されて、驚いたことに原作の何倍かよくなった、と言ったらしいが、原作がシノプシスなんだから、これもむべなるかなである。

(『半沢直樹――アルルカンと道化師』池井戸潤、講談社、2020年9月17日初刷)

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