藤井聡太とは何者か――『藤井聡太 強さの本質』(4)

第5回の三浦弘行九段は、実に凡庸なことを述べる。

「何といっても終盤力です。終盤が強いからこそ、中盤で時間を使える。
 終盤で一分将棋になっても間違えない、だから安心して中盤に打ち込める。少ない残り時間でも勝てる。これが強さの秘密の一つだと思います。」
 
もっともらしいことを言ってるけれど、考えてみると、あまりに当たり前すぎて、何の秘密の解き明かしにもなっていない。
 
でも三浦九段は、朴訥で、そういうところが、かえってファンに喜ばれる。

「野球に例えれば、絶対的な抑えのエースがいるようなものです。防御率0・0のクローザーがいる。1点差で勝てる。」
 
ここまで来ると、信仰と紙一重、同じ競技を戦う相手としては、どうなんだろうね、と思わざるを得ないけど、とにかく藤井聡太の、相手に対する信頼というか、相手を呑んでかかるというのは、こういうことなのか。
 
ほかに九段は屋敷伸之、谷川浩司、佐藤康光あたりがいるんだけども、この面々は、藤井聡太の恐ろしさを、分かってないんじゃないか。
 
というか、みなひとかどの棋士であり、そう簡単にここまで来てたまるか、という自負心もあるのだろう。あるいはそれだけ、苦労したということか。
 
たとえば屋敷伸之九段。この人は、藤井が登場するまでは、最年少のタイトル保持者の記録を持っていた。

「〔藤井さんは〕力だけだとトップクラスでしょう。……いまそのクラスはいっぱいいます。トーナメント戦で勝ち抜き、タイトル戦に出るのは大変なことです。またタイトル保持者も皆強く、藤井さんがどんなに強くてもタイトルを獲るのは容易なことではないでしょうね。」
 
ところが藤井は、あっという間にそうなった。
 
つぎは谷川浩司九段で、さすがに谷川は、棋士の一生をよく見ている。

「完成度が高いというのは現時点ではプラスですが、それがどう影響していくかはまだ分からない。20代前半の羽生さんは2手目☖3二金や☖6二銀をよく指しました。常識を疑い自分の頭で考える。その影響で羽生世代全体が序盤の分からない局面でウンウン考えていた。その蓄積が、40台になった羽生世代がいまなお活躍している要因でしょう。
――藤井七段に関してはこれからですか。
この年でそこまでされたら他の棋士はお手上げでしょう(笑)。やるならタイトルを取ってからでしょうか。」
 
しかし藤井は、谷川の言った方向へは、タイトルを獲った後も、行かないような気がする、って、私が言うのも、いささか滑稽ではあるな。
 
最後は佐藤康光・将棋連盟会長。この人も名人位を取ったことがある。

「藤井さんは、自分なりの作戦を編み出していくのか。常に最新形の中から終盤力を生かして勝っていくのか。ちょっと興味があります。」
 
佐藤はこのときにはまだ、藤井の秘密は、全然わかっていない。まだ、棋士という天才の中で、ずば抜けた天才だと思っている。
 
そうではないんだ。藤井聡太の前には、並び立つ天才はいない。その他の棋士という名の、あえていえば、「凡才」がいるだけだ。

この記事へのコメント