藤井聡太とは何者か――『藤井聡太 強さの本質』(1)

藤井聡太が棋聖になった。渡辺明棋王・王将に3勝1敗で勝った。17歳11カ月の史上最年少で、初タイトルの棋聖位を獲得したのである。
 
史上最年少の四段、デビュー以来の29連勝、朝日杯2年連続優勝、史上初の3年連続勝率8割超え、それに加えて今度は、最年少のタイトル保持者。
 
新型コロナウイルスの影響で、将棋連盟は約2か月間、棋士たちの活動を休止した。そのために藤井聡太の最年少タイトルは、ほぼ無理だと思われていた。
 
それが2か月で解けて、針の穴のような可能性が残った。渡辺明が保持する3冠のうち棋聖位が、藤井との間で争われることになった。まるで漫画の主人公である。
 
コロナのせいで、タイトルを争う日程は、実に過酷だった。木村一基王位と2日にわたって、王位戦第2戦を争い、それに逆転勝ちして、中一日で渡辺明と、運命の棋聖戦第四局を争った。
 
普通、第一線の棋士は、週1回の割合で、対局が付く(対局には「付く」という動詞が付く)。相手によって戦形や戦局を考え、入念に準備したのち、対局に臨む。1年間に50局以上、対局があり、それで勝率6割を超えていれば、第一級の棋士である。
 
しかるにどうだ、その日程を聞くだけで、これはひょっとすると、藤井に対するいじめじゃないか、パワハラじゃないか、これはもう、現代の「おしん」じゃないか、と疑われた。
 
しかしもちろん、藤井に記録を作らせてあげたい、という気持ちも感じられる。
 
だから藤井は、家に帰る暇もなく、将棋を指し続けていたのである。しかしこれでは、全国を巡業する、昔の「越後獅子」ではないか。
 
そもそも誰が、どんな権限で、対局の日程を決めているのか、そのあたりも「ナゾ」である(でもないか、よくわかりません)。
 
しかし藤井は、強い人と将棋が指せるというので、嬉々としていたらしい(このあたり、まったく想像で書いている)。
 
そして棋聖戦、運命の第4局。
 
いやあ、強い強い。アベマTVで見ていると、画面に出るコンピュータの数字は、渡辺明の方が、途中まではずっと、わずかによかった。しかし、いったん桂馬と歩で攻め立てられると、あとは防戦一方、どうしようもなかった。
 
終わってから、渡辺が、今日の藤井さんは自信を持っていた、桂馬で攻め始められるとすぐに、今日は負けだなと思った、と述べていた。これでは、最初から負けている。
 
しかし渡辺明に、最初から負けだな、と覚悟させる藤井聡太というのは、いったいどんな人なのか。
 
ここは真剣に考えなくてはならぬ、というほどのことはないのだが、そして私が考えたって、どうしようもないのだが、それでも興味は津々として尽きない。

そこで一番新しいところで、『藤井聡太 強さの本質』というのを買ってきた。これは将棋連盟の編で、今年の五月に出た本だ。
 
最初に、藤井聡太七段に対する〈巻頭インタビュー「最善手を目標に」〉があって、次に16章に分かれて、藤井聡太の将棋を、トップ棋士たちが分析する。最後に〈特別編「藤井将棋次の一手」〉という構成である。
 
考えてみれば、藤井聡太の将棋を、谷川浩司、佐藤康光、森内俊之から、広瀬章人、糸谷哲郎、さらには若手の、永瀬拓矢、佐々木大地らまでが、徹底的に解剖するというのは、ちょっと見ない、空前絶後の企画ではないか。

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