これは抜群に面白い。ちょっと早いけど、今年のベストテンの1冊に入ると思う。
著者が「朝日新聞取材班」であるから、いろんな記者を各所から寄せ集めて、継ぎはぎのごった煮を、何とか体裁を整えて、ノンフィクションと称しているのだろう、などという予測は完全に外れた。
カルロス・ゴーンは、2018年11月19日に逮捕され、2019年12月29日にレバノンに向けて逃亡した。
その一年余のことが軸になっていて、とにかく波乱万丈の面白さなのだが、その間、日産が生まれてからの「独裁の系譜」(第2部の見出し)で歴史をえぐり、あるいはゴーンが逮捕されたのちの、日仏政財界の日産をめぐる「統治不全」(第3部の見出し)などの広がりがあって、興味津々である。
ゴーンは、主に4つの罪状で、4回逮捕された。
「ゴーンが起訴された4事件は、①役員報酬の虚偽記載(金融商品取引法違反)②日産に損失を付け替えた特別背任(会社法違反)③サウジアラビアルートの特別背任(同)④オマーンルートの特別背任(同)だ。」
これだけでは何のことやら、分からないだろう。たとえば最初に逮捕された、役員報酬の虚偽記載については、ゴーンが10年度から14年度までの5年間で、役員報酬が99億9800万だったのに、49億8700万と虚偽の有価証券報告書を提出したというもの。開示しなかった報酬は、50億1100万円に上るという。
そのほかの事件についても、同じような単位の金が、不正なルートでやり取りされているという。
しかしもちろん、ゴーンにしてみれば、それぞれにちゃんとした理由があるが、収監されていては、それを表明する場所がない。それでレバノンに逃れて、正々堂々とジャーナリズムの前で、自分の論を述べたのだ。
そのいちいちについては、本文を読まれたい。とにかく血沸き肉躍る面白さで、頁を繰る手を止めることができない。
そして、そういうこととは別に、この本については、いくつか発展して別のことを考えた。それを書いてみたい。
この記事へのコメント