腹にガツンと一撃――『最後の秘境 東京藝大ー天才たちのカオスな日常ー』(2)

第3章から後は、ノンフィクションにふさわしく、実名、仮名を交えながら、藝大生がインタビューに答えている。
 
これらの藝大生のうち、何人かの専攻がよくわからない。音楽や美術のジャンルの名称で、こんなに戸惑ったことはない。
 
たとえば、「本庄彩(仮名/楽理科)」の「楽理」って何。
 
器楽科や声楽科が、「音」を使って音楽をするのに対し、楽理科が使うのは、「言葉」だという。

「コンサートのパンフレットに、解説文があるでしょ? ああいうのを書くのが、私たちなの」
 
なんとなくわかったような、わからないような……。それを書くために、藝大に行くのか。

「音楽は幅が広い世界で、謎がいっぱい。
 どうして、この和音の組み合わせは心地よく聞こえるのか?
 どうして、こんな楽器があって、こんな歌が作られたのか?
 どうして、ゴリラは人間そっくりの鼻歌を歌うのか?
 そんな不思議すべてが、楽理科の守備範囲なのだった。」
 
あまりに広すぎて、よくわからない。
 
参考までに、本庄彩(仮名)さんが書いたレポートを、見せてもらう。

「後日、送られてきた資料は二つ。『幻想交響曲におけるベートーヴェンの影響』と『諏訪大社御柱祭で歌われる「木遣り唄」に関する研究計画書』だ。
 ベートーヴェンから諏訪大社まで。音楽に関することなら、何でもあり!」
 
これでは何もわからない。
 
第4章は「青柳呂武(ろむ)(音楽環境創造科)」と「佐野圭亮と大崎風実(ふみ)(ともに工芸科漆芸専攻)」の、三人のインタビューである。
 
音楽環境創造科はすでに、「ホルンで四コマ漫画」の入試問題で出てきた。
 
青柳さんは、口笛を、クラシック音楽に取り入れることを目指して、頑張っている。

彼は2014年の、「国際口笛大会」成人男性部門の、グランドチャンピオンである。ふーん、そんなコンテストがあるとは、全然知らなかったよ。

「ええと、高校一年生くらいから世界大会を目指して本格的に練習を始めました。高校三年生になって進路に悩んでいたら、親が『口笛をもっと極めてみたら』と藝大を勧めてくれたんです。音楽環境創造科という学科なら、そういうことができそうだよと。」
 
ふつう親は、そんなこと言わないでしょう。これは親の方にインタビューしてみたい。どうして音楽環境創造科が、口笛と相性がいいのか、まったく謎である。
 
ちなみに青柳さんは、口笛で藝大に入った、最初で最後の人になるだろう、と言われている。

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