韓流!――『82年生まれ、キム・ジヨン』(3)

学校へ行くようになっても、大変なことは起こる。

「学校さえ安心できなかった。無理やり腕の内側に手を入れてつねったり、すっかり育ちきった女子生徒のお尻をたたいたり、ブラジャーの紐が横切っている背中の真ん中を撫でたりする男性教師が必ずいたからだ。」
 
うーん、これは本当かなあ。小説用の脚色じゃないかな。そう思いたい。

もちろん少数の変態教師は、いつでもいるだろうけど。そしてそれを、野放しにしておいちゃいけない、とは思うけど。
 
またバイトをしようとすれば、時にきわどいことになる。

「服装や勤務態度を理由に、バイト代を盾にとって接近してくる雇い主や、商品と同時に若い女をからかう権利も買ったと錯覚しているお客が山のようにいたからだ。女の子たちは自分でも気づかないうちに、男性への幻滅と恐怖を心の奥にどんどんためこんでいった。」
 
これは#MeToo運動が、アメリカやヨーロッパで盛り上がってくると、それに呼応して韓国でも、社会の様々なところに、浮かび上がってきたのだろう。

日本でもありそうなことだが、あまり聞かない。あるいは、僕だけが知らないのか。
 
伊東順子がこの本の「解説――今、韓国の男女関係は緊張状態にある?」を書いていて、これが優れている。僕なんかの知らないことだらけだ。そこに、#MeToo運動のことが出てくる。

「文在寅〔ムンジェイン〕大統領の新政権が発足した年の年末から始まった#MeToo運動は、その発祥の地である米国をはるかに超える破壊力をもって、韓国社会を席巻したのである。
 米国ではハリウッドから始まった運動が、韓国では権力の中枢である検察から始まった。その後に芸能界、政界、大学、映画、演劇、文学等、韓国社会のあらゆる分野を巻き込んだ。次期大統領候補は政治生命を断たれ、人気の俳優は自ら命を絶った。ノーベル文学賞候補とも言われた詩人の作品は教科書から削除された、だけじゃない。それ以外にも、多くの人々が告発を恐れて活動を停止したり、発言を控えるようになった。」
 
こういうことは、日本では、大々的には起こらなかった。その理由は判らない。
 
この本は、こういう大きな流れをよくとらえているが、著者のチョ・ナムジュが本当に優れているのは、些細なことを忘れずに書き留めるところだ。
 
夜遅くなったキム・ジヨン氏が、バス停で男子学生と揉め事を起こしそうになる。そこを、女の人に助けられる。
 
あとで、その女の人に、お礼を言おうと思ったとき、こういう言葉をかけられる。

「でもね、世の中にはいい男の人の方が多いのよ。」
 
さりげない一言だが、キム・ジヨン氏だけではなくて、僕、すなわち読者の方も救われる。

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