詩人にして哲学者、そして大阪漫才師――『夏物語』(7)

陽はすっかり暮れた。田中晶子がもうすぐ帰ってくる。Nやんは、泊まるのかどうか。その都合も聞かぬ間に、息せき切って話し出す。

「緑子がアルバイトで働いてるレストランな、ここはビルの一階になってて、その上に整体と占いとコンサルが合体したような、わけの分からん店が入っとんねやわ。ほんで洋食屋のある一階が、電気工事をやるんやけど、これがうるそうて、二階から文句を言うてくるわけや」

「毎日、文句言うてきて、その時だけは、ぶつくさ言いながら帰るねんけど、翌日になると、また同じ文句を言うてくる。要するに、一日の記憶は一日で消える、という珍しいパターンやね」

「その二階の店から、なんといたちが降ってくるんや。ここ、緑子と夏子の会話や。
『「そしたらさ、ある日とつぜんいきなり天井の板がぼこって外れて、そこからいたちが落ちてきてん」
「店に?」
「お客さんがおるときやったからもう、何がどうなってんていうくらいの大騒ぎになってべつに高級な店じゃないし普通の洋食屋みたいなところやけど、でもいきなり上からいたちがぼこんゆうて落ちてきたら、やっぱりそれはびっくりするやん?」
「するよそれは」わたしは肯いた。
 ……
「せやけどいたちも命がけやな。厨房で鍋のなかに落ちたらスープになるで」
「それがうまいこと店のほうに落ちてくんねん」緑子が言った。』
ここから、怒り心頭のレストランの店長が登場して、ひっちゃかめっちゃかになるんや」

「そこは俺が読もうか。
『「んで、うちの店長が、こんなんおかしい、いくらビルが古くても汚い運河がそばにあっても、こんなんぜったいおかしすぎるって言いだして。んで、いたち送りこんできてんのはぜったい上のスピサロンやゆうて。んで苦情言いに行くってなってさ。そしたらスピは否定して――って、そらそうやんな、どうやっていたちなんか送りこむねんな。捕まえるのも難しいし、そんなんして誰の何になる?」』
まあ、そらそうや。」

「いかにも大阪で、ほんまにおもろい」

「しかしまだあるんやな、これが。
『「……それで店長もちょっと頭おかしなってんのか、もうぜったいスピの仕業や言うねん。ミーティングやゆうてわたしら残らされて、なんか壮大な陰謀論とか展開しだして。上のスピとどこそこの宗教団体がつながってて、最初のメメント騒ぎもぜんぶ仕込みやってことになって、盗聴器しこまれてるおそれがあるとかなんとかゆうてジェスチャーしだしたり……完全に頭おかしいやろ」』

「ここ、もう、なんとも言えんね。しかも最後に、オチがつくんや。そこはワシが読むわ。
『「んでけっきょく上と下で戦争みたいな状態になって。それでもまだぼこんいうて落ちてくるし。客もけえへんなってまうし。わたし和ませよと思って店長に『いっそのこと店の名前、〈リストランテいたち〉に変えたらどうですの』って言うたってん。そしたら『なんでうちが名前変えなあかんねん、そんなもん上が先に変えるのが筋やろ』みたいな返しきて。そっちなんっていう。んで今度いたち落ちてきたら捕まえて下から上に押し返す、一匹残らず押し返していく、そのための練習もするぞみたいなことも言いだして……なあ夏ちゃん、これがほんまの『いたちごっこ』とちゃうのん……」』」

「くっくっくっ……」

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