「祈る人」――『詩集 燃える水滴』

トランスビューにいるころ、若松英輔さんの本を、何冊か出した。

『神秘の夜の旅』が処女作で、これは、何というか、エッジの立った本だった。越知保夫のことを書いた本で、菊地信義さんが、それにふさわしい装幀をして下さった。文字通り、キレのある本だ。

『魂にふれるー大震災と、生きている死者ー』は、何度も重版し、大勢に読まれた本だった。上原專祿や田辺元の「死者との協同」について、こんなに多く読まれたのは、信じられない。
 
最後の「魂にふれる」は、若松さんが奥様のことを書いて、ただもう感動したという以外に言いようがない。
 
そういえばこのころ、末木文美士先生も、上原專祿や田辺元の「死者の哲学」について、思いを巡らしておられた。これは昨年暮れに出た、末木先生の『死者と菩薩の倫理学』として結実した。これは今読んでいる。

『池田晶子 不滅の哲学』は、若松さんというよりは、池田晶子さんに、約束を果たしましたよ、というつもりだった。

池田さんは、若くして死ぬことを覚悟しておられ、自分が死んだ後、必ず精神のバトンを受け継ぐものが出てくるから、それを見逃さないで、とおっしゃったのだ。

若松さんはその後、売れっ子となり、いくつもの出版社から本を出された。その本をすべて送ってくださる。そしてときに、そこに励ましの短い手紙が入っている。本当に頭が下がる。

この詩集は、そのうちの一冊である。

私は詩集は、通り一遍にしか読まない、というか、読めない。若松さんには申し訳ないが、いつもそんなふうだ。

しかし、この詩集は、そうではなかった。

帯の文句に言う。

「弱き者の/ささやきを/聞き逃さないために」
 
このところ、『原民喜ー死と愛と孤独の肖像ー』、『〔私家版〕西村玲 遺稿拾遺ーー1972~2016』と読んできて、それでこの帯である。気合いを入れて、読まないわけにはいかない。
 
とは言うものの、若松さんは宗教者であるために、詩の言葉になると、宗教を持たない私とは、言葉を発する位置が、微妙にずれている。
 
それでも、こういう言葉に出逢う。

  孤独にさいなまれ
  誰も
  自分のことを
  祈ってくれる人などいない

  そう おもったとき
  あなたの知らないところで
  祈る人の姿を
  想い出してください               
                            (「祈る人」部分)

西村玲さんに、読ませたかった。

(『詩集 燃える水滴』若松英輔、亜紀書房、2019年2月10日初刷)

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