ポハピピンポボピア星の方へ――『地球星人』(2)

奈月は自分を、ポハピピンポボピア星人だと思っているだけあって、母とは折り合いが悪い。
 
母はしょっちゅう奈月を叩く。頭は悪いし、見た目もみっともないので、きっと結婚もできないだろう。母は近所のおばさんと、そういう話をする。
 
奈月はそういう話をされても、はい、その通りです、と素直に肯んじる。そういうものに、なんの魅力もないと思っているからだ。

「自転車で走っていると、同じ形の家が並んでいる風景が、巣だなあ、と思う。
 ……
 ここは巣の羅列であり、人間を作る工場でもある。私はこの街で、二種類の意味で道具だ。
 一つは、お勉強を頑張って、働く道具になること。
 一つは、女の子を頑張って、この街のための生殖器になること。
 私は多分、どちらの意味でも落ちこぼれなのだと思う。」

「一つは、お勉強を頑張って」、「一つは、女の子を頑張って」は、子供が大人に対するとき、その場を取りつくろって、そういう言い方をする。「女の子を頑張って」は、言わないかもしれないが、そのぶん本気で、女の子はそういう気になっている。
 
その後、奈月は、塾のヘンタイの先生に、精液を飲まされるが、「魔法」の力で反撃し、逆に相手をなぶり殺してしまう。もちろん「魔法」の力が働いているので、奈月は守られている。このあたりは、なんというか「寓話」そのものだ。
 
そして一足飛びに、34歳になった奈月は、もう結婚している。ただし夫は、「すり抜け・ドットコム」というサイトで見つけた。つまり偽装結婚だ。
 
それは「婚姻や自殺、借金など、様々な項目で世間の目をすり抜けたい人たちが、仲間に呼び掛けたり、協力相手を探したりするサイトだ。
 私はその中の『婚姻』のページにアクセスし、『性行為なし・子供なし・婚姻届けあり』とチェック項目に印を入れて相手を探した。」
 
そうして、理想の夫を手に入れたのだ。しかしもちろん、偽装結婚には努力が必要だ。

「夫の両親、兄夫婦、友人などがたまに、『工場』の様子を偵察しに来た。私と夫の子宮と精巣は『工場』に静かに見張られていて、新しい生命を製造しない人間は、しているという努力をしてみせないとやんわりと圧力をかけられる。新しい人物を『製造』していない夫婦は、働くことで『工場』に貢献していることをアピールしなくてはいけない。
 私と夫は、『工場』の隅で息を潜めて暮らしていた。」
 
けれどもこれは、いつかはばれることだ。奈月はもう、希望もないままに、ただ生き延びていくしかない。

「私は、そのまま魔法使いではなくなり、宇宙船をなくしたただのポハピピンポボピア星人として余生を生きている。母星に帰れない今、ポハピピンポボピア星人として生きていくのは孤独だった。地球星人が私を上手に洗脳してくれることを願うばかりだった。」
 
ところが、そうはいかない。奈月と夫は、田舎の家で、二十数年ぶりに会った由宇を巻き込んで、人殺しの活劇を演じ、果ては由宇と夫の智臣の二人が妊娠するという、グロテスクな奇跡を招来するのだ。

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