にわかには信じられない――『不死身の特攻兵―軍神はなぜ上官に反抗したか―』(3)

鴻上尚史は佐々木友次さんに、全部で五回会って、取材を進めている。その取材が確かなもの、信頼に足るものだというのは、たとえば次のようなところで分かる。

「――飛行機の上で、おしっこしたくなったらどうするんですか?
『いや、たれっぱなしですよ。どうしようもない。タオル持って行くわけにいかんし』
――ズボン汚れるじゃないですか。
『仕方ない。そのうちに乾きますからね』
――それはよくあることですか?
『よくある、みなさんよくあったと思いますよ。2時間か3時間飛んでますからね』」
 
そうか、あの飛行機乗りたちは、本番の戦闘になれば、みんな垂れ流しなのか。でも確かにどうしようもない。
 
佐々木友次さんは敗戦で帰ってきたが、その過程で、自分に銃殺の命令が出ていたのを知った。大本営発表で、特攻で死んだ者が、生きていては困るから、銃殺しようとしたのだ。

敗戦の無条件降伏が遅れていたら、佐々木さんは本当に危なかった。そのことを知ったとき、どんな思いがしたろうか。その胸中は、ちょっと想像できない。

日本国のために命をかけて戦ったのに、その日本に裏切られたのだ。

鴻上尚史は、そこのところは、あまり深く掘り下げていない。というよりも、佐々木さんの方で、もういいじゃないかという、あきらめとも何ともつかないものが、濃厚に出ている。

そこは、実際に戦争に行って、そして最終的に国に裏切られたものでなければ、わからないことなのだろう。

佐々木さんは、鴻上が取材したときは、九十歳を超えていた。仮にその思いがどれほどのものだったとしても、それを言葉にするのは難しかったろう。

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