続々・「天才」の謎に挑む――『頂へ―藤井聡太を生んだもの―』

またまたやっちまった、藤井聡太の七段昇段である。
 
竜王戦の挑戦者決定戦で、連続昇級した場合は、規定により昇段することになっている。藤井聡太はこれで、四段から七段までを、半年間で駆け抜けたことになる。
 
なんだ、将棋の段位なんて、実にちょろいものじゃないか。確かに、藤井を見ているとそう思う。
 
でもそれは、藤井聡太にしかできないことなのだ。こんなことは、大山康晴の生まれ変わりにしか、できないことなのだ(と思ってしまう)。
 
そこで再々度、天才の謎に迫ってみよう。
 
著者は中日新聞の記者・岡村淳司で、とにかく幅広く、取材の網を広げている。
 
まず藤井聡太が通った「ふみもと子供将棋教室」。ここに、そのすべての出発点があるはずだ。

教室を運営する文本力雄は、「定跡の学習、詰め将棋、対局」の三本を柱にしている。
 
そうか、言われてみれば、実にまともな三本の矢である。これが、藤井聡太の骨格を作っているのだ。
 
でも、その三本の矢で、プロ棋士になったのは、「ふみもと子供将棋教室」では、まだ藤井聡太しかいない。
 
文本力雄は生徒に、プロ棋士になるようにすすめたことはないと言う。

「地元で負け知らずの天才少年が、血反吐を吐き、気が狂うほどの努力をしてもなお、かなうかどうかわからない夢。」それがプロ棋士への道なのだ。
 
藤井聡太の、デビュー以来の30連勝を阻止した、佐々木勇気は語る。

「これだけ連勝できるのは、連勝記録よりもっと上の志があるから。中学生とは思えないすごい姿勢だ」
 
やはり、生まれ変わりを認めざるをえない様子だ。
 
佐藤天彦に、公式戦で勝った試合でも、時の名人に勝って、有頂天になったりはしない。

「今回は勝てたが、まだまだ実力的には名人に及ばない。これからも一層頑張らなければと思います」
 
この「名人」は、目の前にいる佐藤天彦と同時に、その背景にそびえる、大山康晴十五世名人をも入れている。だから実力的に、とにかく追いつこうとする。
 
本書は、新聞記者が広く取材した、どうということのない読み物だが、藤井聡太が何を目指しているかの、一つの傍証にはなる。

(『頂へ―藤井聡太を生んだもの―』
 岡村淳司、中日新聞社、2018年3月7日初刷、4月7日第2刷)

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