「天才」の謎に挑む――『弟子・藤井聡太の学び方』(1)

将棋については、プロが指し手を、どんなふうに思って指しているのか、本当のところはまったくわからない。

羽生を頂点とする天才集団が、どんなふうに動いているのか、ぼんやりと外野から眺めるだけだ。それでも十分、面白い。

ときの名人が、AIに負かされたりしているが、これは異次元のゲームで、人間同士の切った張ったは、あいかわらず抜群に面白い。
 
しかし、この一年間の藤井聡太の活躍は、そんなことを全部吹き飛ばしてしまうくらい、圧倒的だった。他の棋士が、全部凡人に見えるほど、その活躍は、傑出していた。
 
いったい何が起こっているのか。どういう本を読めば、手掛かりが得られるのか。
 
そう思っていたときに、杉本昌隆七段の、この本が出た。『弟子・藤井聡太の学び方』とは恐れ入ったタイトルだが、藤井聡太が本を書くのは、さすがにまだ無理なので、師匠の本を読むしかない。

オビに「なぜ、彼は強くなれたのか、その秘密を師匠が初めて明かす」とある。版元がPHPなので、過度な期待は禁物だが、でも期待してしまう。

「幼いころの藤井が負けると大泣きしていたのは、今や有名なエピソードになりました。
 ・・・・・・
 そばで見ていると、もう立ち直れないのではと気を揉むくらいに泣き伏しているのですが、研修会では一日四局は指します。次の手合いが決まると、もうケロッとしています。
 次の対局に負けを引きずることもありません。その意味では切り替えが早い。明らかにプロ向きの性格だと思いました。」

すでに有名になったことだが、藤井聡太の大泣きには、師匠もまず注目している。つまりこれが、秘密の核心(?)なんだろうか。

でもそれだと、なんというか、それで終わってしまう。それに、負けて泣いているのは、有名なところでは、たとえば佐藤康光九段(現・将棋連盟会長)がいる。佐藤康光は、負けた日は、布団を被って一晩中、泣き明かしていたという。

だから、大泣きするのは、将棋の天才の、必要条件ではあっても、十分条件ではない(「必要」と「十分」は、これでいいんだろうな?)。

それにしても、佐藤康光九段を凡人の代表に持ってくるとは、私もさすがにいい度胸だな。しかしこれは、藤井聡太と比較すれは、誰でもそうなるのだ。

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