冷静に、ひたすら冷静に読む――『Black Box ブラックボックス』(4)

「政府サイドが各メディアに対し、あれは筋の悪いネタだから触れないほうが良いなどと、報道自粛を勧めている」というのは、この本の中で、最も重要な一節だ。
 
密室における、きわめて個人的な犯罪行為を、政府の誰かが、わざわざそういうふうに、曲解して流している。普通なら、とても考えられないことだ。

このことが、個人的犯罪行為を、政治的事件に、一変させることになる。犯罪に加担する側は、もうすでにつまずき、転んでいるのだ。
 
著者の伊藤詩織さんは、この出どころを、徹底的に探るべきだった。誰が流しているのか、特定すべきだった。
 
しかしもちろん、外野が著者に、こういうふうにすべきである、と言うのは簡単である。実際にそんなふうに進めば、たちまち著者は、たとえば不可解な交通事故に、巻き込まれたりするだろう。
 
ほかにも滑稽というか、不可思議なことは、起こっている。一つは、なぜ逮捕を取りやめたのかを、中村格氏に会って、確かめようとしたときである。
 
今回、この本を出すに際して、著者は中村氏への取材を、二度試みた。

「出勤途中の中村氏に対し、『お話をさせて下さい』と声をかけようとしたところ、彼はすごい勢いで逃げた。人生で警察を追いかけることがあるとは思わなかった。」
 
こりゃ、おかしいや、ですむ問題ではない。仕方がないので、中村氏には、文書による質問状を出した。しかし回答は、まだ来ていないという。
 
あるいは、山口氏の逮捕が取りやめになり、検事が交替したとき。二度目に面会したとき、この検事は最後にこう語った。

「この事件は、山口氏が本当に悪いと思います。こんなことをやって、しかも既婚で、社会的にそれなりの組織にいながら、それを逆手にとってあなたの夢につけこんだのですから。それだけでも十分に被害に値するし、絶対に許せない男だと思う。
 ・・・・・・検察側としては、有罪にできるよう考えたけれど、証拠関係は難しいというのが率直なところです。ある意味とんでもない男です。こういうことに手馴れている。他にもやっているのではないかとおもいます」。
 
これ、本当にこう言ったのかね。この本が差し止めになってない以上、この検事はこう言ったのだろう。
 
でも本当に、手馴れた「レイプ魔」だとすると、野放しにしておいては、いけないのではないか。
 
アメリカでは女優が、少し前からセクシャル・ハラスメントの被害を、公けにすることが盛んになってきた。大物プロデューサーや国会議員が、それによって失脚している。
 
日本のこれは、しかしセクハラどころの騒ぎではない。日本のマスコミが沈黙したとしても、海外のマスコミは、黙っていないのではないか。そうなる前に、日本のマスコミは、真相を暴かなければいけない。

(『Black Box ブラックボックス』
 伊藤詩織、文藝春秋、2017年10月20日初刷)

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