血沸き肉躍る!――『新聞記者』(4)

著者は、森友・加計問題のような、大きな政治的テーマとは別に、レイプ被害にあった伊藤詩織さんにもインタビューしている。

伊藤さんは、このときはまだ「詩織」という下の名前しか公表していなくて、後に『ブラックボックス』という、性被害を描いた単著を刊行するときに、「伊藤」という上の名も公表している。

「会見での話や関係者への取材によれば、詩織さんは2015年4月3日に都内で山口〔敬之〕氏と会食し、その後、記憶をなくしている状態でホテルで暴行されたという。」
 
相手はTBSでワシントン支局長などを務めた政治部記者で、退社後はフリージャーナリストに転身していた。詩織さんは、同じ道を歩む先輩に話を聞きにいって、暴行を受けたのだ。
 
詩織さんは警察に訴え、警視庁は準強姦罪で告訴状を受理した。捜査員は、アメリカから帰国する山口氏を、成田で捕まえようと待っていた。しかしその直前、上層部から指示があって、逮捕は取り止めになる。
 
なぜか。山口敬之氏は、安倍晋三首相の近くにいて、安倍首相を礼賛する著書を、複数出していたのだ。
 
もちろん逮捕が取りやめになった、理由はわからない。因果関係があったかどうかもわからない。その理由がわからないからこそ、それを取材するべく、新聞記者がいるのだ。
 
こうして、レイプ被害という極めて個人的な事件が、安倍首相及びその周辺に波及していく。
 
結局、前川喜平前事務次官も、フリージャーナリストの詩織さんも、「社会的に抹殺されるかもしれないリスクと背中合わせで疑惑を告発している。2人の勇気をだまって見ているだけでいいのか。遠くで応援しているだけでいいのか。私にできることは何なのか」。
 
こうして新聞記者という職業は、著者にとって天職になっていく。
面白いのは、読者の方もそれに応えていくところだ。

「うれしいことに東京新聞にも、大きな反響が寄せられていた。
6月8日からの一週間で、約50部の新規購読の申し込みがあった。お客様センターへは私に対する激励の電話が数多くかかり、編集局宛に手紙も届けられるようになった。ここまで多くいただいたのは記者人生ではじめての経験だ。」

うーん、たった50部かあ、というなかれ。新聞の部数が増える話は、ここ数年で初めて聞いた。

でも「あとがき」で、望月さんは気になることを書いている。

「私はといえば、社内外から集中砲火を浴びることも増えた。記者として知りたいことを聞いているだけなのに・・・・・・頑張りたいけど意味あるのかな・・・・・・なぜこれほど叩かれるんだろう・・・・・・こんなことならもう会見に行くのはやめようか・・・・・・弱気な思いが何度も何度も頭をよぎる。」
 
気になるのは、「社内外から集中砲火」というところだ。望月さんは、ギリギリのところで耐えているのだ。

僕は何の力にもなれない。でもこれだけは約束する。望月さんがいる限り、東京新聞はやめない。そして、彼女が地団太を踏んで辞めるようなら、そのときは東京新聞を止めようと思う。

(『新聞記者』望月衣塑子、角川新書、2017年10月10日初刷)

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