デザインの見方――『塑する思考』(2)

タイトルの『塑する思考』とは、どういう意味か。柔よく剛を制す、という言葉がある。この「柔」という言葉は、さらに二つの意味に分けられる。それは「弾性」と「塑性」である。

「弾性」はよく分かっている。外部から力が加わって、形が変わっても、その力がなくなれは、元の形に戻ろうとすること。

では「塑性」はどうか。これは耳慣れない言葉だが、外部からの力で変形されると、加わった力に応じて、そのつど形を変化させてしまうこと。著者はわかりやすい例として、粘土を挙げている。

一般には、「弾性」を鼓舞し、しっかりした自分を作り上げようとする。だから例えば、そういうものを目指し、自己実現を目的として、教育を受けさせたりするわけである。

しかし著者は、若い頃から今まで、そのしっかりした自分というのが、さっぱり分からなかった。

「私には、若い時分から今に至るまで、自分とは何かを考えれば考えるほど、さっぱり分からない。ところがこの分からないまま自分など考えないのが、自分にとっては良好の状態らしいと、この歳になって気づき始めています。何を考えているにしても、すでに考えている自分が存在するのだから、自分なんてまったく気にかける必要はなく、そのつど与えられた環境で適切に対応している自分のままがいいのではないか、と。」
 
自分はどうしたら自己実現できるだろうか、と考えるのではなく、目の前のことを、自己実現もへったくれもなく、夢中でおやりなさい。それが、いってみれば「人生の王道」なのですよ。と、そこまでいっているわけではないけれど、でも小林秀雄から養老孟司まで(間にどんな人が入るかはわからないが)、「達人」たちはそういう。
 
そして、佐藤卓もそう言うのだ。それがつまり、「塑する思考」の意味である(やっぱりちょっと難しいですね)。

著者は初め電通に入り、そこでニッカ・ウイスキーの広告を、中身をどんなウイスキーにするかまでを含めて、企画を練る。著者の側から新商品を、広告込みで、自主的にプレゼンテーションしてみるのだ。

無論この時代には、めったにないことだった。酒の中身と、ボトルのデザインの、両方を考えるのだ。すると工場の人たちの話が、俄然おもしろくなる。

「工場の責任者やブレンダーの話に聞き入ってしまうだけでなく、煉瓦造りの工場の質感ひとつにしても、何しろ興味深くてならない。
 ・・・・・・
 対象を理解すべく深く深く入り込んでいく方法は、次々に疑問を持てるかどうかに懸かっています。この頃から『分かる』だけでなく、むしろ『分からない』のほうが重要なのではないかと考え始めました。」
 
こういうところも、養老さんとぴったり合うのだろう。ちなみに、このとき生まれたのが、「ピュアモルト」である。

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