圧倒的だ・・・でも――『騎士団長殺し――第2部 遷ろうメタファー編』(3)

腑に落ちない最大の問題は、二つある。

まず、雨田具彦が巻き込まれたという、ナチの高官暗殺未遂事件。これは結局、どうなったのだろう。公式的には、まったく記録が残っていない事件は、しかし明らかに、この作品の背骨を形作っている。

「とすれば、彼の絵『騎士団長殺し』の中に描かれている「騎士団長」とはナチの高官のことだったのかもしれない。あの絵は一九三八年のウィーンで起こるべきであった(しかし実際には起こらなかった)暗殺事件を仮想的に描写したものなのかもしれない。事件には雨田具彦とその恋人が関連している。その計画は当局に露見し、その結果二人は離ればなれになり、たぶん彼女は殺されてしまった。彼は日本に帰ってきてから、そのウィーンでの痛切な体験を、日本画のより象徴的な画面に移し替えたのだ。つまりそれを千年以上昔の飛鳥時代の情景に「翻案」したわけだ。」
 
この「騎士団長殺し」が描かれた由来を説明しているのは、上巻である。それが下巻では、より解き明かされているのか。

もちろん、伊豆の老人ホームで、雨田具彦が見ている前で、「私」は「騎士団長」を殺害する。それは本当に、クライマックスの頂点だ。

でも、その関係は、言葉では説明されていない。だから、象徴的な方法でもって、謎の余韻を残して、本を閉じた後も、そこから逃れられないんじゃないか、そこが素晴らしいんじゃないか、という意見もあるだろう。でも僕は、それでは納得できない。

腑に落ちないもう一つの問題は、「私」が地下のメタファーの国を、あてどなく旅しているとき、「秋川まりえ」は「免色」の屋敷に、忍び込んでいたことだ。

「私」は「秋川まりえ」を奪還すべく、果敢に「騎士団長」を殺し、地下帝国の旅に出たのではないのか。
しかし、もし「秋川まりえ」を救うことが目的であるなら、伊豆まで行って、雨田具彦の眼前で、「騎士団長」の格好をしたイデアを殺さなくとも、自分のうちから山一つ越えた「免色」邸を、家探しすればよかったではないか。

まして「秋川まりえ」は、ひょっとすると「免色」の実の娘かもしれないのだから、これは進む方向によっては、喜劇になる可能性も大いにある。

つまり、いろいろと謎に満ちた話は、お話としては面白いけれど、それはそれだけのことだとも言える。
 
まあ結局は、謎が残るかたちになるから、この作家を読み続けるわけだけれど、でも考えてみれば、これはちょっとおかしなことでもある。

(『騎士団長殺し――第2部 遷ろうメタファー編』
  村上春樹、新潮社、2017年2月25日初刷)

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