面白い、でもときどき退屈、だが・・・――『騎士団長殺し――第1部 顕れるイデア編』(1)

大長編である。でも村上春樹にしてみたら、いつもの通りなのかもしれない。

今回は、ちょっと変則かもしれないが、全二巻のうち、まず「第1部 顕れるイデア編」を取り上げる。上巻だけの書評である。
 
まず「プロローグ」があって、「顔のない男」が「私」の前に現われ、肖像を書いてくれという。これは、クライマックスの先取りというやつで、映画などでよく使われる手だ。こうすると、ここまでは、とにかく読まねばなるまいという気になる(なりませんか)。
 
ここで大事なのは、末尾の部分だ。
「私は時間を味方につけなくてはならない。」
 
これはすごく大事なことだが、しかしどの点で大事かというと、それはちょっとわからない。しかしとにかく、非常に大事なことであることはわかる。

「私」は三十半ばすぎの画家で、それも職人的な肖像画家である。
一方的に妻から別れようと言われて、それを無理やり受け入れるために、「私」は北日本を長く旅行した。
 
旅から帰ってくると、友だちの父の画家が養老院へ入ることになったので、無人になった別荘を借りて住んでいる。そこは山の中で、山一つ越えたところに「免色渉(メンシキワタル)」という、謎の富豪が住んでいる。この富豪は、五十代半ば過ぎである。
 
この家で「私」は、つぎつぎに不思議な経験をする。いまは養老院にいる画家が、「騎士団長殺し」という傑作を、こっそり描いていたり、そこから、とりあえず騎士団長の装束をまとった、「イデア」が出てきたりして、混乱の謎に陥る。

「イデア」はまた、騎士団長の装束をまとったまま、「騎士団長以外の何ものでもあらない」というような、奇妙な言葉遣いをする。「何ものでもない」というのを、「何ものでもあらない」というふうに、一度肯定型を入れてから、否定形にするのである。

「免色」はまた、山一つ越えたところにいる「秋川まりえ」を毎日、双眼鏡で見ている。ひょっとすると、「秋川まりえ」は、「免色」の実の娘かもしれないのだ。
 
謎は謎を呼んで、これ以上はないくらい大きくなり、でも、村上春樹は全部の謎は解かないだろうな、というか、謎解き小説ではないから、謎は謎を呼んで、終わりまで行くだろうな、と思わせる。そして、その謎は、どれも魅力に満ちているのだ。
 
しかし問題は、謎には関わらない部分が、なんというか、退屈であることだ。

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