棋士の何を見るか――『不屈の棋士』(2)

千田翔太はここ2、3年、突然強くなり、タイトル戦にも出てくるようになった。千田は言う、棋士とソフトの実力を比較してみれば、ソフトが上であることは明らかだ、と。

「千田 ・・・・・・ここで私は決断をしました。これからは『棋力向上』を第一に目指してやっていこう、と。・・・・・・より特化するということです。公式戦で勝つよりも、純粋に棋力をつけることを第一としようと。」
 
これだけ聞いていると、ふうんという感じだけど、じつはこれは、最も新しい、革命的なやり方なのである。コンピュータは、レーティングによって格付けされている。千田のインタビューが行われたのが2015年だが、そのころの最強ソフトは3600点あった。これは、千田のレーティングよりも、800点以上うえでもおかしくないという。
 
千田翔太は1994年生まれ。つまり、ソフトの方が上というのを、そのまま受け入れることができるのだ。だから彼は、今では基本的に人間の棋譜は並べない、ソフトだけに限って並べるという。

これはこれで、いい勉強法である。ソフトの棋譜には、一手ずつ評価値がついているので、形勢については、はっきりした理由が分かる。

「将棋に強くなるためには、『この時にこうするといい、悪い』というパターンを自分の中にたくさん蓄積することが大事だ。ソフトを使えば、従来の方法より圧倒的に素早く吸収できるというのが千田の見解だ。」
 
それで千田は、昨年のNHK杯選手権の決勝まで行った。決勝の相手は村山慈明、千田はそこで敗れ去った。ちなみに今年のNHK杯選手権者は、ソフトをまったく相手にしない佐藤康光である。

ソフトだけを相手にして、決勝で敗れた千田と、ソフトを無視して、10年ぶりにNHK杯選手権者になった佐藤康光。もちろん年度が違うし、ぶつかる相手もそれぞれなのだが、それにしても、良くできた話ではある。
 
だが、そういうこととは別に、ソフトは手っとり早く将棋が強くなる方法としては、最強なのである。

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