養老孟司先生のこと――『カミとヒトの解剖学』(1)

黙読用とはちがって、毎日一時間、別に朗読の練習をしているというのを、前に述べた。
これは、どれでもと言うわけにはいかない。その中で、日本語が安定しているのは養老孟司先生の本だ。そこで『カミとヒトの解剖学』を読んでみる。これは私の作った本だ。

養老先生の代表作といえば、なんといっても『唯脳論』である。これは不思議な作りの本で、1ページ16行と行間をたっぷりとった本なのに、字間はベタ(13級)ではなく、12・5級詰めになっている。ページの下段3分の1弱は、図版や註を入れるべく余白になっている。つまり、ゆったりと16行で組んでありながら、字間は詰め打ちしている。なかなか芸が細かいのである。

『カミとヒトの解剖学』の場合は、通常の43字×18行で、これは詰め打ちなど余計なことをする必要がない。それでも、四半世紀ぶりに声に出して読んでみると、いろいろなことに気づく。冒頭の「宗教体験と脳」のところ。

「昨年もパリのサクレ・クール寺院の前でそういう体験(註・宗教体験に近いもの)があって、おかげで人生が変わってしまった。それがいいのか、悪いのか、まだわからない。」

こういう原稿を受けとっといて、「人生が変わるような経験て何ですか、先生」、という一言が言えなかったなんて、本当に情けない。僕はそのころ30代後半で、年だけは食っていたけど、本当に駆け出しだったのだ。

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック