NHKの朝ドラ?――『水車小屋のネネ』(津村記久子)(1)

津村記久子の毎日新聞連載小説。本は去年の3月に出て、僕が今年1月に買ったのは第9刷。ほぼ毎月、重版している。紀伊國屋の書店員が薦める「キノべス!2024」の第3位、2024年「本屋大賞」の第2位である。

「キノべス!2024」と、2024年「本屋大賞」の上位にランクされているのは、やや気になるが(つまり安っぽいんじゃないかと)、しかし谷崎賞受賞作だから間違いはあるまい。
 
津村記久子は『とにかくうちに帰ります』というのを、1冊だけ読んだことがある。すばらしく面白い小説だった。続けて読もうとしたが、あまりに作品が多すぎて、かえってわからなくなり、シュリンクしてしまった。
 
だから『水車小屋のネネ』は大いに期待した。

「理佐」と「律」は、年の離れた姉妹である。理佐は高校を出たばかり、律はこの4月から小学3年生だ。姉妹はおよそ10歳違う。
 
この小説は5章からなる。「第一話 一九八一年」、「第二話 一九九一年」、「第三話 二〇〇一年」、「第四話 二〇一一年」、「エピローグ 二〇二一年」と、10年ごと、50年にわたる大河小説なのだ。
 
姉妹の母親は、家族に暴力をふるう父親と離婚し、3人で暮らしているが、そのうち母親に男ができる。男は、小学生の律を邪険にし、律にとって家庭は、安心して住めるところではなくなる。
 
理佐は律を連れて、家を出て、田舎に職を求める。この姉妹が、これから暮らしてゆくには、周りの様々な助けが必要となる。その実際を、きめ細かい文章で描いて、第一章は見事である。
 
理佐が働くのは、蕎麦屋の夫婦のところで、この店は蕎麦粉を練って、打ち立てを出す。蕎麦粉は、近くにある水車小屋で挽いており、それを監督するのは、なんと一羽の、オウムに似たヨウムという鳥である。

この鳥は「ネネ」という名で、人間とごく初歩的な話ができる。だからこの小説のタイトルに使われているし、また50年にわたって活躍もする。

はじめに言っておくと、実際にヨウムがそういう鳥であるのか、それとも空想上のことなのかは、どちらでも構わない。ちなみに僕は、ヨウムが、そういう鳥であることを前提に読んだ。
 
姉妹はどちらも魅力的だ。第一章は、理佐の視点で書かれており、高校を出たばかりの女性が、妹を連れて、自活してゆく大変さと、周りの人々の、じわりと沁みこむ温かさが、絶妙の加減でストーリーを成り立たせる。
 
その中で、妹の律の、添景のような描写がすばらしい。

「律は図書館から、小学生向けの〈平家物語〉と〈シャーロック・ホームズ〉、そして印刷工場の仕組みを説明する本と、水田の一年を説明する本を借りていた。」
 
どうです、この書目の取り合わせは。小学3年になったばかりで、この組み合わせは素晴らしい。この女性が年頃になれば、実にいい女になっているに違いない。そう思わせる描写だ。
 
第一章はこうして姉妹が、おぼつかなくはあるけれど、いろんな人に助けられつつ、荒波を越えていく準備が出来たところまでである。
 
2人の姉妹は、ところがなんと、そのまま年は取るけれども、ずっとそのままなのだ。