17年振りとは懐かしい――『コメンテーター』(奥田英朗)

まずオビ表――「トンデモ精神科医・/伊良部、復活!」。言いたいことは尽くしている。

『イン・ザ・プール』、『空中ブランコ』、『町長選挙』ときて、17年振りに『コメンテーター』である。
 
収録作品は次の通り。

  コメンテーター

  ラジオ体操第2

  うっかり億万長者

  ピアノ・レッスン

  パレード

頭から終わりまで一気に読んでみると、「うっかり億万長者」だけが、少し違っている。いずれも「オール讀物」が初出誌だが、「うっかり億万長者」以外は、2021年から22年にかけて書かれている。
 
「うっかり億万長者」は、2007年1月号に掲載されているのだ。
 
最初の「コメンテーター」が典型だが、近年の作品では、伊良部は活躍しない。いや、活躍することはするんだけど、大人(たいじん)ふうに収まって、見ようによっては立派な先生である。治療法を偉そうに説明しないから、深謀遠慮の人に見える。
 
その代わりに活躍するのが、ミニスカートでパンツ丸見え、どんな患者にも注射を射っちゃうナースのマユミだ。
 
マユミはバンドをやっていて、インディーズでは有名である。

「『おーい、マユミちゃん。テレビに映ってるよ』
 伊良部が振り返って画面を指さすと、マユミは体を揺らしたままレンズに顔を近づけ、口の端をひょいと持ち上げた。まるでロック・ミュージシャンのプロモーション・ビデオである。」
 
文体込み、医師とナースは、こういう調子である。
 
なお「コメンテーター」は、テレビのワイドショーに出てくる知識人モドキである。伊良部がその席に呼ばれているのだから、作家の痛烈な皮肉が効いている。
 
ところで、一つだけ異質な「うっかり億万長者」は、株のデイトレーダーで億万長者になった患者に、伊良部とマユミがたかりまくる話だ。つまりまだ、伊良部は「トンデモ精神科医」なわけである。
 
他の4篇では伊良部は、一見そうは見えないが、的確な指示を出し、患者を再生させる。
 
それが、そうは見えないむちゃくちゃなところは、看護師のマユミが前面に出て活躍する。
 
そういう主役の交代をさせるまでに、17年かかったわけである。
 
しかし主役は交代しても、相変わらず面白い。

(『コメンテーター』奥田英朗、文藝春秋、2023年5月10日初刷)