憂国の士となって財務省に挑む――『ザイム真理教』(森永卓郎)(3)

この本の最後は、岸田総理の「2023年は資産所得倍増プラン元年」という、国民の投資への呼びかけを、批判して終わっている。
 
2022年11月のOECDの発表によれば、翌23年の経済成長率は、アメリカが0.5%、ユーロ圏が0.5%と、超低成長になっている。なかでもドイツは-0.3%、イギリスは-0.4%と、マイナス成長が予測されている(これは去年の予測だが、結果はどうだったんだろう)。
 
かりに予測通り西側の経済が失速すれば、株価も下がって、大暴落になる可能性もある、と森永さんは言う。
 
そんな中で岸田総理は、国民に投資を呼びかけている。

「国民生活がどんどん貧乏になるなかで、なけなしの老後資金さえ奪い去ろうとしているのだ。」
 
しかしこれは、森永さんの見立てとは違って、今のところ逆方向に振れている。
 
今年、2024年から新NISAが実施され、国民の富裕層はかなりの程度、新NISAを利用しているらしい。
 
おかげで株や投資信託は急上昇を描き、特に株は、バブルのときの最高値を突破してしまった。
 
もちろんまだ、新NISAは始まったばかりで、この先、どういう流れになるかはわからない。
 
しかし少なくとも、森永卓郎の予言と違うことは確かだ。
 
ここからは、森永さんの書いたことからは外れる。
 
新NISAは、いったい誰が考えたのだろう。イギリスのISAを手本にしたらしいが、日本の財務省が考えたのだとすれば、どういう狙いがあるのだろう。
 
富裕層の1人1800万までは無税とするというのは、森永さんによれば、どんな場面でも税金をかけ、「国民の生活よりも、財政均衡主義を最重要と考える財務省」には、考えられないことだ。
 
去年までの旧NISAならわかる。時期が来れば税金がかかってくるのだから、旧NISAは、ざっくり言えば、最初は遊んでやって、あとでがっぽり頂こうという算段だ。
 
しかしこんどの新NISAは、その人が生きてる限り、(株式や投資信託に限りはするが)元手の1800万円は、どれだけ増えても税金は掛からない。

こういうことをして、財務省や政府は何の得があるのだろう。そこが分からない。
 
そもそも1800万という大金に、税金をかけないというのは、国の財政の基本構造が、変わってしまうようなことだ。それなら、たとえば国会で議論しなくていいんだろうか。
 
市民の側も、額に汗して働き、その正当な報酬を稼ぐ、という倫理的側面を、破壊してしまっていいのだろうか。
 
これはみんなが間違いなく喜ぶから、そういうことは議論しなくてもいいのだ。そういうことなのか。
 
政府もそういうことなら、大々的に宣伝をして、内閣の手柄にしそうなものだけど、そうはしない。
 
所詮は投資という名の「博奕」だから、表立って手柄にはしにくいんだろうか。
 
これはどうやら裏がありそうだ。どういう裏かはわからないけれど、時期が来れば、それはきっと明るみに出るだろう、というところまで勘繰りたくなる。

『ザイム真理教』は、森永さんの力説にもかかわらず、いまいち信用ができない。日本の毎年の借金を、日銀に永久に背負わせればいい、というところからして、森永さんの言う「マクロ経済の常識」には、無理があると思う。
 
それよりも『新NISAの謎―それはザイム真理教の壮大な陰謀だった―』(仮題)というテーマで、1冊書き下ろしてもらえないか。その方が、はるかに興味がある。

(『ザイム真理教』森永卓郎、
 三五館シンシャ、2023年6月1日初刷、10月12日第12刷)