ソーシャル・メディアを駆使して――『優等生は探偵に向かない』(ホリー・ジャクソン)

デビュー作『自由研究には向かない殺人』が、英米でベストセラーになったホリー・ジャクソンの続編である。
 
相変わらずうまい文章で、読み始めると没入してしまう。ソーシャル・メディアの取り入れ方も上手で、解説の阿津川辰海によれば、「硬直化した、秘密に満ちた地域コミュニティも、ソーシャル・メディアの多様な目によってフラットに解体されていく。」
 
ここがホリー・ジャクソンの、もっとも現代的なものだ。
 
とは言うものの、この続編は、例えばアメリカの探偵ものとは、ずいぶん違っている。変な話だが、続編臭がきつすぎるのだ。
 
デビュー作の犯人は、もちろん捕まっている。しかしそれ以外の、たとえば最初の話でカクテルにクスリを入れて、女子高生を暴行していた男は、続編ではまだ裁判中であり、それは結局、裁判で無罪となる。

そこでこれは、さらに続編があって、3部作で完結になるんだなとわかる。
 
もう一つ厄介な点は、今回は事件が小さすぎることだ。主人公の高校生ピップは、男友だちの兄の失踪事件を、ポッドキャストで配信し、リスナーから手掛かりを集めていく。前回と同じく、関係者へのインタビューや、SNSなどを駆使して、真相を明らかにしていく。
 
しかし所詮、警察でも相手にしない成人男性の失踪だから、読者としてもだんだん飽きてくる。全部で500ページのうち、400ページ強が、事件だか何だか分からない、友だちの兄貴の失踪なのだ。
 
しかしそう思っていると、突然過去の連続殺人鬼の話になり、さらにその子供の話になる。若い女性ばかりを殺す殺人鬼の子供は、父親に言われるがままに、殺人に協力していたのだ。

父親は監獄に入っているうちに、同じ囚人に殺されてしまうが、未成年の子供は、何年か教育措置を受けた後、違う名前と別の経歴をもって、娑婆に出て普通に暮らしている。

この男はだれか。ここが事件の核心である。
 
これ以上はネタバレになるので言えないが、終わってみれば、読みごたえは十分にある。
 
初めに言ったが、アメリカの私立探偵とか弁護士のような、ゲームもどきのミステリーではなくて、英国の地方のコミュニティがしっかり描けている。うんざりするような地方都市の、息がつまりそうなところもあって、そこが面白い。
 
もう一つは、これもはじめに述べたが、ソーシャル・メディアを駆使することによって、事件は劇的な展開を見せる。
 
とは言っても僕には、本当はピンとこない。

「ハイ、みんな
町に貼られているポスターを見て知ってると思うけど、ジェイミー・レノルズ(コナーのお兄さん)が金曜日の晩、追悼式のあとで消息を絶ちました。〔中略〕そこで、パーティーで撮った写真や動画をこちらに送ってください。〔中略〕画像や動画を保存してあるなら、スナップチャット/インスタグラムのストーリーも大歓迎です。」
 
ここは本文とは独立して、横組みでゴチックで組んである。いよいよ面白くなるぞ、思うのだけれど、「スナップチャット/インスタグラムのストーリー」なんて、何のことだか分からない。でもとりあえず、便利な道具だというのが分かっていれば充分だ。
 
ピップが主人公の第3作目、『As Good As Dead』も英国では刊行されている。はやく翻訳が出ないか。

(『優等生は探偵に向かない』ホリー・ジャクソン、服部京子・訳、
 創元推理文庫、2022年7月22日初刷、9月2日第2刷)