これは新聞広告を見たとき、ちょっと面白そうだなと思った。
著者のライター・和田靜香は知らないが、取材協力の小川淳也は衆議院議員で、そのあとを追ったドキュメンタリー映画、『なぜ君は総理大臣になれないのか』が評判になっていたからだ(ちなみに僕は、この映画をまだ見ていない)。
和田靜香は56歳、単身で都内に暮らす。音楽その他のライターが主たる仕事だが、雑誌が次々に廃刊になり、さまざまなバイト、つまりコンビニ、パン屋、スーパー、おにぎり屋、レストランなどで糊口を凌いできた。
ちなみにその時々の時給は、常に最低賃金!(ここを大きく)だった。
ところが、2年になろうとしているコロナ禍で、生活そのものが破綻する人が増え、自分もバイトを馘になった。このままでは絶望の淵に立ち尽くし、破綻していくだけだ。
そこで『なぜ君は総理大臣になれないのか』の記事を書いた縁で、小川淳也・衆議院議員に、暮らしにまつわる諸々の疑問を、突っ込んで聞いてみた。これはそのドキュメントである。
考えてみるとこの本は、小川淳也が和田靜香のインタビューに答えた限りのもので、きつい言い方をすれば、新手の選挙公報ともいえるものである。
ただそれに留まっていないのは、和田靜香のライターとしての腕だ。
「私の人生はとりとめがなく、いつも行き当たりばったり。先行きは見通せず不安で、どうしようどうしようとジタバタしてきた。
『ええっと、和田さん、あなたの人生のダメさや不安は、あなた自身の問題じゃないですか? いい年をして、もっと計画的にやるとか、努力されたらいかがでしょう?』
きっと、そんな風に自己責任を問われるだろう。まったくその通りだけど、世の中そうそううまくは生きられない。〔中略〕私みたいな人があっちにもこっちにもいて、みんな不安で、息もできないよう。」
著者はこの位置に立つ。最底辺ではないが、下層階級の庶民だ。
そしてコロナ禍の周りを見渡して見る。
「街へ出れば、無料の食料配布に数百人が並び、生理用品が買えない女性に区役所が無料で配ったり、昨日まで普通に働いていた人が仕事も家も失くして路上に寝るとか、日々貧困がアップデートされている。これまでと様相が違うのは、誰もが明日は我が身になり得ること。みんながビクビクして、互いをけん制し合ってるかのよう。」
まったくおっしゃる通り。しかし政府は何もしない。いや、何かをしようとしているのだが、それがどこにも届かない。
「なのに、政府は260億円もかけてスカスカで飛沫が飛び散るようなマスクを送りつけてみたり。覚えていますか? お肉券だのお魚券だの迷走した末にやっと10万円を配り、私たちに寄り添うそぶりも見せないままGoToだ、オリンピックだと浮ついてきた。一体なんで、そうなるの?」
そこで思い切って、国会議員・小川淳也に直接体当たりで、聞いてみることにしたのだ。