いまは昔――『お茶をどうぞ――向田邦子対談集』

向田邦子のこの本は、2016年8月に単行本が出て、それから3年たって2019年1月に文庫になっている。
 
こんな時期に、昔死んだ作家の本が出るのは何かある、と普通は思うじゃないですか。
 
それでも、買うところまではいかなかった。
 
ところが東京新聞の書評面に、女性作家がエッセイを書いていて、そこでこの文庫を取り上げていたのだ。その内容は忘れたけど、とてもチャーミングに紹介してあった。それでついふらふらと。
 
今から40年前、1980年前後に、雑誌に載った対談を集めたものだが、結論から言うとあまり面白くなかった。
 
河出が5年前に、これを集めて単行本にしたのは、新刊が払底して、にっちもさっちもいかなくなったからだろう。
 
ところがこれが、そこそこ売れたものだから、文庫にしたわけだ。
 
対談者は次の通り。
 
黒柳徹子、森繁久彌、小林亜星、阿久悠、池田理代子、山本夏彦、ジェームス三木、和田勉・久世光彦(これは鼎談)、橋田壽賀子・山田太一・倉本聰(四人で座談)、原由美子、大河内昭爾、青木雨彦、常盤新平。
 
対談者を見れば、丁々発止やってると思うでしょうが、違うんだね。
 
40年前は、向田邦子であっても、一応はホステスの役割をしなければ、いけなかったのだ。
 
あるいは向田邦子だから、そういうふりをしなければ、いけなかったのか。ほとんどの場合、対談者は向田の容姿をほめる。それに対して「そんなことはございません、とんでもないことですわ」と、答礼を交わす。これが実に煩わしい。
 
と嫌なことをあげつらって、書くつもりだったが、考えてみれば、いやなことは書きたくない。それで一つだけ書いておく。
 
阿久悠との対談の場面である。

「向田 〔自動車の〕事故があった時の対処能力が遅いんですって。女はぶつかった時に、あっと言ってまず目をつむっちゃう。男は目をあく。これが基本的に違う。私、これは大変な名言だと思いましてね。女はそういうふうにできてますからね。一朝事ある時に目をつむる。男は目をあく。……それは、そういうふうにできてるんですから、しようがないと思うんですね。」
 
40年前には、こんな無益なヨタ記事で、女はかわいらしい、でも男に劣っている、ということを活字にして、公開していたんだ。心底、恥ずかしい。

それを考えると、女も、そして男も、40年間に、微々たるものかもしれないが、はっきり進歩はあったのだ。

(『お茶をどうぞ――向田邦子対談集』向田邦子、河出文庫、2019年1月20日初刷)