ゴーンは変わったのか?――『カルロス・ゴーンー国境、組織、すべての枠を超える生き方 (私の履歴書)ー』(4)

第2部に「カルロス・ゴーン名語録」という、切り取られた短い文章が載っている。いかにも日経新聞であり、「私の履歴書」である。
 
ここに、ときどき面白いことが書かれている。

「……ひとつの柱は透明性です。/成果があがっていなくても/透明性があれば会社は/信頼を得ることができます。」
 
ほんとかなあ。もしそう信じているのなら、ゴーンはこれまで信じられていたよりも、もっと面白い人のような気がする。
 
次の言葉も含蓄が深い。

「人にやる気を起こさせるには、/アイデンティティーを/尊重すること。/これこそ人間が/何千年も苦しみや痛みを/かけて学んだことです。」
 
ゴーンが本当にそう信じているならば、人間の教師と呼ぶにふさわしい、人物ではあるけれど……。
 
次の言葉も示唆的だ。

「日産の社風を変えようとしても、/おそらく変えることは/できなかったでしょう。/だいたい、変えようとする/などということは、/はなはだしく人間の本性に/もとることです。」
 
とにかくゴーンは、まず相手のアイデンティティーを尊重するところから、仕事を始めたように見える。
 
そこはどうなのか。実際にゴーンと仕事をした人に、聞いてみたいものだ。
 
ということでカルロス・ゴーンの本2冊、2001年発行の『ルネッサンスー再生への挑戦ー』と、2018年発行の『カルロス・ゴーンー国境、組織、すべての枠を超える生き方 (私の履歴書)ー』を読んでみた。
 
結論から言うと、ゴーンはあんまり、というか全然、変わっていない。
 
アライアンスの考え方は、2冊目の本のあと、変えたのかもしれない。いや、ルノー・日産の合併を推進したのだから、仮にいやいやであるにしても、はっきり変えてしまったと言えるだろう。
 
しかし、ここではもう一点、この本に書かれていないことで、気になることを述べてみよう。それは、ゴーンをめぐる女たちのことだ。
 
ここから話は、ぐんと飛ぶ。
 
山田太一の『月日の残像』という本については、このブログでも数回取り上げた。その中にこんな話が載っている。

「ダスティン・ホフマンが『卒業』のオーデイションを受け、その結果を自宅の電話で夫人が受け『静かに電話を切った。彼女が目をあげ、ダスティンと長い廊下の端と端とで見つめ合った。彼女がひっそりと言った。「あなたに決まったわ」その瞬間、ダスティンはこの結婚が終わったと思った』(『書いては書き直し』酒井洋子訳)
 それはいくら何でも早すぎるんじゃないかと思うが、アメリカの成功というのは、それだけすさまじいのだろう。」
 
そういうことが、ゴーンの場合にも起こったんだろう。ほかのところは、どんなに変わっていなくても、その点だけが決定的に違っていれば、ということなのだろう。これは本人にも、どうしようもないことだ。

(『カルロス・ゴーンー国境、組織、すべての枠を超える生き方 (私の履歴書)ー』
 カルロス・ゴーン、日本経済新聞出版社、2018年3月23日初刷)
posted by 中嶋 廣 at 12:06Comment(0)日記