ゴーンは変わったのか?――『カルロス・ゴーンー国境、組織、すべての枠を超える生き方 (私の履歴書)ー』(3)

話はそれるが、ゴーンの生まれ故郷、ブラジル出身の作家で、パウロ・コエーリョという人がいる。この人は『アルケミストー夢を旅した少年ー』という、ベスト&ロングセラーを書いている。
 
ゴーンはそれを、2016年の秋に読み返した。そして、ひとたび自分が信じたら、周囲の批判を恐れずに、突き進んでいくことが大事だ、ということを改めて思った。
 
これはゴーンの、電気自動車にかける夢を述べたくだりだが、はっきり言って、コエーリョの『アルケミスト』とは、あんまり関係がないんじゃないか、と私は思う。
 
ただ、『アルケミスト』が自然に思い浮かぶところが、ゴーンの真骨頂であると思うし、そういう点では、「私の履歴書」という半分、饅頭本のような本も、馬鹿にしたものではないと思う。
 
日本の実業家の誰が、パウロ・コエーリョを挙げられるだろう。あるいはそれでなくとも、文学作品の最上の上澄みを、何か挙げられるだろうか。
 
ということはさておき、ゴーンがマクロン大統領に屈服する前には、日産とルノーの関係について、こんなことを言っていた。

「日産とルノーが進める『アライアンス(提携)』は合併でも買収でもない第3の道である。日産にとってルノーは大株主だ。だが、だからといって日産が何でも言うことを聞く関係だったら、両者の関係はここまでうまくいかなかった。」
 
日産とルノーは、ゴーンにとって、ある時期までは、そういう関係だった。
 
そこに、フランス政府との、というのはマクロン大統領との、緊張関係が起こった。

「決着したのは15年暮れだ。関係者が多く、詳細は控えるが、一言で言えば、大きな試練だった。株式を2年以上保有する株主に2倍の議決権を与えるという14年春施行の『フロランジュ法』が発端だ。」
 
フランス政府が、2倍の議決権をもって、株を買い増しし、緊張が高まったのだ。
 
じつはこの間の経緯は、ここを読んでも、よくわからない。ゴーンが言うように、「詳細は控える」、ということか。
 
しかしこの間、ゴーンには、ひとつの信念があった。

「『フランスの出来事は日産に何ら影響を与えてはならない』というものだ。17年かけて築いた日産・ルノーのアライアンスそのものが揺らぐ懸念があった。
 最後は、仏政府の関与を限定する内容で合意に至ることができた。ルノーへの議決権を限られた案件に制限し、日産に関連する案件には議決権を持てない仕組みができた。日産には良い結論だった。」
 
ここまでを見ていると、ゴーンは一貫して、日産の独立のために体を張っている。

けれども多分、それがいつごろからか、そういうふうには、なれなくなっていったのだ。
 
ゴーンはやがて、ルノーと日産の「合併」を議題に挙げ、経営会議の面々は誰も、これに正面切って反対しなかったという。
 
そして2018年の暮れに、ゴーンは逮捕された。
posted by 中嶋 廣 at 00:10Comment(0)日記