あのころは希望に燃えて――『ルネッサンスー再生への挑戦ー』(1)

『ゴーンショッキング』を読んで、ゴーンその人に興味が湧いたので、2001年発行の『ルネッサンスー再生への挑戦ー』と、2018年発行の『カルロス・ゴーンー国境、組織、すべての枠を超える生き方 (私の履歴書)ー』を読んでみることにした。

『ルネッサンス』は日本に来てすぐのときで、もう一方の日経の「私の履歴書」、『カルロス・ゴーン』は、逮捕される直前に出た本である。20年近い時の流れに、何かが現れているのではないか、と考えたのである。
 
そこでまず『ルネッサンスー再生への挑戦ー』を読んでみる。これは文句なく面白い。

幼少期から学生時代、そしてミシュラン、ルノーを経て、日産に入って大活躍するまでの、半生を描いた本である。
 
巻頭に8ページのモノクロ写真が載っている。ブラジルで生まれで、すぐにレバノンに移り、フランスのエコール・ポリテクニーク(エリート校!)などで学んで、ミシュランに入る。
 
そのころ、リタと結婚式を挙げた写真もある。『ゴーンショック』では、リタと別れて、2012年にキャロルと再婚した経緯が載っているが、このあたりはもちろん、『ルネッサンス』には出てこない。
 
この本の初めに、会社の立て直し方を、本を読んで学んだのか、と聞かれて、そんなものは書物から得たのではない、と答えている。

「その種の本を読む必然性を感じたことは一度もないからだ。
  ……
 私は実地経験を積み上げてマネジメントのさまざまの基礎を学んだ。それだけのことである。基礎というのはつまり、問題を特定する、優先順位を確立する、あらゆるレベルで双方向コミュニケーションを促進するといった」ことであり、問題はそれを実行することにあるのだ。
 
だから、「ゴーン流マネジメント」を読んだだけでは、結局どうにもならないのだ。
 
しかし経験したことがなければ、本を読むしかない。まず必要条件を満たさないと、どうにもならない。

「彼らは解決策を見つけることができず、問題にかすりもしない中身のない計画作りに終始する。そうこうするうちに、問題はますます複雑で対処しにくくなり、解決に至る道もいっそう険しくなるのである。」
 
これはまるで、日本の政治家が新型コロナを扱って右往左往し、アサッテの方向を指している図を活写しているようだ、というのは置いといて。
 
「学生時代」のところでは、レバノンのイエズス会の学校、ノートルダム・カレッジが印象深い。
 
神父の一人は言った。

「アマチュアは問題を複雑にし、プロは明晰さと簡潔さを求める」

「まず耳を澄ませなさい。考えるのはそれからです。大事なのは、自分の考えを可能な限り分かりやすい方法で表現するよう努め、何事も簡潔にし、自分でやると言ったことは必ずやり遂げることです。」
 
ほとんどゴーンの原型ではないか。