ゴーンとは何者か?――『ゴーンショックー日産カルロス・ゴーン事件の真相ー』(4)

「第3部 統治不全」も面白い。じつは僕には、この章が一番面白かった。ゴーンが去った後、それぞれの人間らしいところが、むき出しで出ている。

 ゴーンとフランス大統領、エマニュエル・マクロンが、いわば死闘を演じ、いったんはゴーンが折れて和睦するが、その後ゴーンが、日本の検察によって追い落とされ、日産の西川(さいかわ)廣人社長や、ルノー会長のジャンドミニク・スナールが、虚々実々の駆け引きを行い、ついに西川が追われていく。

 そのあと日産は集団指導体制になるが、それもなんと、ひと月経たぬ間に崩れ去ってしまう。
 
 ゴーンが去った後に登場する面々は、こんなことを言うと失礼かもしれないが、みな小粒である。
 
 そこが何というか、日本人らしくて親しみがわく。うんと誇張して言えば、ほとんど「仁義なき戦い」のようである。
 
「日産の株価は、18年11月のゴーンの逮捕以降、下落傾向に歯止めがかからず、20年3月末時点の株価は逮捕直前の4割弱の水準にまで落ち込んでいる。」
 
 投資家はよく知っているのである。経営の立場にあるものは、ゴーン以後、それぞれが底辺で蠢いている、と言ってはあまりに失礼であるが、でもそういうふうにしか捉えられない。

 そこに新型コロナウイルスが襲いかかる。さきごろトヨタの決算が、8割減ということで、日本中に衝撃を与えた。
 
 では日産はどうか。

「ルノーとの安定した関係づくりも大きな懸案だが、ルノーの19年12月期決算は、純損益が10年ぶりの赤字に転落。三菱自動車を含めた3社連合の業績は総崩れの様相だ。ゴーン後の3社連合の行方も見通しづらくなっている。」
  
 お先真っ暗である。3社連合はどうなるか、とみんなが見ているだけで、それを引っ張っていく、肝心の人がいない。

 しかしそもそも、ゴーンのいう「もう一つのストーリー」は、どうなっているのか。
 
 レバノンに逃れて、朝日新聞の取材を受けた最後に、ゴーンはこう言った。

「『大事なのは、もう一つのストーリーがあるということだ。日本の検察官や日産が言うことを、盲目的に信じることはしないでほしい』
 そして、こう付け加えた。
『またこの対話を続けよう。日本の人たちには、正しい判断をしてほしい』」
 
 そう言われると、つい期待してしまう。
 
 ゴーンは日本で、4度目の逮捕があり、そのため自身では釈明できなくて、逮捕前日に撮影した映像を公開した。

「冒頭で『私は無実だ』と話し、いま起きていることが『陰謀』であり、『謀略』『中傷』だと強調するゴーン。ルノーとの経営統合を恐れた日産幹部が『汚い企みを実現させるべく仕掛けた』と訴えた。」
 
 これは実に分かりやすい。でも本当か。
 
 弁護団も、この「陰謀」説にそっている。

「弁護団はさらに、事件化にあたっては経産省高官らが関与するなど、日本政府の意向が働いていたとも主張。広中〔弁護士〕は『国策捜査としては一番大きい事件ではないか。日産をフランスに渡すまいという方針の下でやられた』と話した。」
 
 この裁判が日本で開かれなかったのは、本当に残念である。
 
 しかしゴーンにはゴーンなりの、日本の裁判を拒否する理由があったのだ。