こういう実用書の類は、めったに買わない。というか、初めて買った。
そこで、あーあ、買って馬鹿を見ちゃったよ、で終わらせずに、正面から書評することにする。
そもそも僕は、もう稼ぐことができない。障害年金で生活する以外に方法がない。
丁度そのとき、巷では年金以外に、老後の資金として、あと2000万円は要るということを、政府の諮問機関が答申した。
そんなことを言われても困る、というのが、日本人の大多数の意見だろう。
そういう議論をテレビ・新聞で喧しくやっているときに、八幡山の啓文堂に入ったら、この新書が一番目につくところに置いてあった。
この著者、荻原博子はテレビで見たことがあるぞ。そのときは、安倍首相の経済政策である「3本の矢」に対して、かなり強硬な反対意見を述べていた。
「世界がグローバル化するということは、私たちの生活にどんな影響を与えるのか、日銀の大規模金融緩和の失敗は、私たちの生活にどんな悪影響を与えるのか。生活を支える年金や社会保障システムは、どうなっているのか。
こうした大きなテーマを背景に、私たちは、日々、どうやって暮らしていけばいいのか、何を考え、何に注意していけばいいのかを、ここに網羅したつもりです。」
そういうことだ。でも実は、そういうことはほとんど書いてない。
はじめに大病院と、薬の処方箋の話が来る。読者は年寄りで、体のどこかが悪いに違いない。そこでまず体のことから入り、読者をワシづかみにしてしまおう、という編集者と著者の蓮っ葉な打ち合わせが、目に浮かぶようだ。
そういうどうでもいい話が延々続いて、「投資、資産運用」の項目では、金融機関が勧める商品は、すべて相手にとって都合の良いはずのものだから、手を出してはダメ、という話が来る。
よく考えると、それを1行貼っておけば、こんな本を読む必要はない。
しかしながら、ところどころ考えさせられることもある。
「マイナス金利政策の結果、それまで銀行を支えていた『お金を貸して利息を稼ぐ』というビジネススキームは完全に崩壊してしまいました。」
そのくらい銀行は困っているのだ。もはや銀行に打つ手はない。
それで種々の手数料を稼がねばいけないのだが、これもよほどの愚か者以外は、カモにはなるまい。銀行で売る投資信託などは、まったく論外だ。
また株式投資も、からくりを知ってしまえば、とてもまじめにはできない。これには公的資金が介入しすぎているのだ。
「日銀が株を買いまくってきた結果、ファーストリテイリング(ユニクロ)をはじめとしたかなりの会社の筆頭株主が日銀になったというとんでもない状況が生まれています。」
だから株主は、世界の経済情勢や、地球規模の気候変動に気を配る前に、安倍首相と黒田日銀総裁の、もうこれ以上、株は買い支えできない、というサインを、見逃してはいけないのだ。
でもそれって、「忖度(そんたく)」の世界そのものだけどね。
どっちにしても、だから株というのは、いい歳をした大人のやるものではない。
どちらにしても、この本は、頭から終わりまで、全く役に立たない。その役に立たなさの根本は、文章にある。
「もし投資がよくわからないとか、投資の必要性をあまり感じないというなら、金融機関にはあまり近づかないほうがいいかもしれません。」
文章の最後、こんなところでシュリンクしてどうする、逡巡してどうする。「金融機関には近づかないほうがいいのです」とするのが、当たり前ではないか。そういうところが、むやみやたらに目についた。
(『払ってはいけないー資産を減らす50の悪習慣ー』
荻原博子、新潮新書、2018年10月20日初刷、2019年1月20日第8刷)