韓流!――『82年生まれ、キム・ジヨン』(1)

この小説は、韓国で100万部を突破したという。ベストセラーは読まない、あるいは必要とあらば時期を遅らせて読む、というのを曲げてすぐに読んでみる。

とはいっても、女流のフェミニズム小説だというので、あまり期待していなかった。
 
ところが、読むとけっこう面白い。どこが面白いのか、子細に点検するために、2回読んだ。
 
これは表題にある通り、82年生まれのキム・ジヨンという女の、2016年までの、履歴書ふうの物語である。家族は、両親と姉と弟の5人である。
 
まず冒頭の「キム・ジヨン氏」というのに、ひっかかった。登場人物の姓名の下に、「氏」を付けるのは、考えてみれば異様だ。

この「氏」は、どういうふうに受けとめればいいだろうか。主人公の下に「氏」を付けるのは、対象を、ある一定の距離を置いて突き放した見方だが、2度目を読んだ後も、よく分からない。

キム・ジヨン氏は、冒頭の章題の「二〇一五年秋」には、33歳になる。3年前に結婚し、娘がいる。
 
夫のチョン・デヒョン氏は、IT関連の中堅企業に勤めており、キム・ジヨン氏も小さな広告代理店で働いていたが、出産を機に退職した。

キム・ジヨン氏は現在、産後うつから育児うつを引き起こしている。
 
それで精神科の医師に症状を話し、カウンセリングを受ける過程で、キム・ジヨン氏は自分の物語を語る、というのが骨格である。
 
その過程で、女は男に比べてどれほど虐げられているか、というのが炙り出される。
 
そんな小説が面白いのかね、という向きもあるかと思う。しかし面白いのである。
 
例えば初めのところ。キム・ジヨン氏が夫の実家に行って、突然、幽体離脱して、自分の祖母が乗り移り、みんなが啞然とするところ。

「話題を変えるすきもなくジヨン氏が答えた。
『ああ、もう、お義母さん。うちのジヨンはねえ、実は、帰省のたびに体をこわすんですよぉー』
 しばらくの間、誰も呼吸さえできなかった。巨大な氷河の上に家族全員が座っているみたいな寒々しさだ。スヒョン氏〔旦那の妹〕が長い溜息をつくと、それがまっ白な吐息となって散っていくように思えた。」
 
比喩が軽薄、というか蓮っ葉で、ちょっと韓流ドラマめいたところはあるが、でも面白い。
posted by 中嶋 廣 at 14:14Comment(0)日記