詩人にして哲学者、そして大阪漫才師――『夏物語』(2)

「それでも、第一部を見てみると、緑子が口が利けなくて、筆談でしゃべるところは、ほとんどそのままやんか。つまり緑子の場面は、このままでええ、ということやね」

「やっぱり、お姉さんの巻子との会話が、『乳と卵』と比べると、変化に富んでて面白いな」

「大阪での巻子さんの暮らしぶりが、ものすごく立体的になってるんやね。巻子さんの同僚のホステスの話が、おもろいねん。韓国人で30過ぎのスズカちゅう女と、巻ちゃんとで、照明落として店を回してるんやけど、そこへジンリーちゅう、中国から来た大学生が、バイトで入ってくるんよ。」

「そこはほんまに面白い。ジンリー、日本語を古い教材で習うたから『店でも客に「すっごーい!」とかいう場面でも、真顔で「見あげたものですね」とか言うたりするねん……』という具合や」

「ところが、3人で頑張ろういうことになって、スズカがジンリーに、時給を聞くんやわ。大学生やいうんで、足元見られたらかなんから、スズカが、ジンリーのバックに立ったわけやんか。すると、なんとびっくり」

「そこのところ、読むで。
『……足もと見られて少ないんちゃうか、いつでも交渉したるでな、わたし立場的にはママの右腕やしな、とか胸張ってゆうて。そしたらジンリーな、「わたし二千円です」って』
『え』
『え、やあるかいな』巻子は言った。『その金額きいたときのスズカの声よ……死にかけの鶏でも出さんような声だして。死んでしもたか思たわ』」

「スズカの時給は、1600円やったんやね」

「そこも読むで。
『……二千円って聞いたときスズカ、顔が、も、折り紙の裏みたいに白うなってもうて。ほんでからつぎは赤なって、まだらんなって、んで、何にも気づかんでジンリー、目えに涙浮かべながら『お姉さん、もっともっとわたしたちは歌をうたいましょう!』とかゆうて『サバイバル・ダンス』とか入れるしやな、丸椅子に座ったまま放心状態のスズカの肩をジンリーぐらんぐらんゆらしてやな、日本語めちゃくちゃなサバイバル・ダンスやろ、んでジンリーがこれまたまじで歌が下手くそやねん、頭おかしなりそうやつたわ』」

「聞いてるだけでも、腹かかえて、も、苦しいわ」
posted by 中嶋 廣 at 08:52Comment(0)日記