苦しかったあの頃を思い出す――『夫が脳で倒れたら』(2)

言語聴覚士は、高次脳機能障害がどの程度出ているかを、言語の面から検査する。これは大事だけれど、でも言語聴覚士の仕事そのものは、評価が難しい。

言語聴覚士も、患者も、お互いに相手を手探りしていかなければいけない。これは本当に難しい。

誰でも多かれ少なかれそうだが、高次脳機能障害には特徴的なことがある。

「(夫に)高次機能障害があると感じるのは、笑いと泣きのバルブがものすごく緩くなった点だ。」
 
それは鈴木大介が、『脳が壊れた』でも言っていたことだ。
 
僕の場合、泣きの発作は全然なかった。笑いの発作は、突然やってきて困った。本当にまったく突然で、しかも笑うべき時ではないときに、やってくる。

これは、今でこそ頻繁ではなくなったが、それでもなお、やってくる。人と向かい合って、しゃべっているときに、突然襲ってくる。

僕が人と相対していて、急にうつむいたら、それは笑いの発作に、襲われているときだ。
 
その後、「夫」は、急速に回復し、退院した後、家族で花火大会にまで出かけている。

「退院後は飛行機に乗って取材に出かけることにもチャレンジし、やり遂げることができたのもこの経験〔=花火大会の経験〕がステップになったからだと思う。飛行機のときは杖を使っていたが、その後杖なし歩行にチャレンジした。初めて杖なしで取材に出かけた日は転倒の怖れからかなり緊張していたが、これもやり遂げることができ、その後ずっと杖なしで何とか歩けている。」
 
これは本当に立派。僕などは、杖を突かずに外を歩くのは、想像すらできない。これはリハビリテーションを、そうとう激しく行ったことが分かる。

5年前には、医療保険から介護保険に移行するルート以外に、退院後も、引き続き医療保険で、リハビリテーションを受ける選択肢もあったのだ。
 
しかしこれは、実際に脳卒中を起こした人でないと、いや、脳卒中を起こした人の、連れ合いでないと、わかりにくい話なので、ここまでにする(当事者は、ほとんど何もわからない)。
 
最後に、費用の問題。入院期間中に支払った医療費は、入っていた都民共済から下りた金と相殺されたという。

「適用となったのは入院についての項目で、一日につき九〇〇〇円が最高一二四日まで支払われるというもの。計約110万円を受け取ったが、トントンだったわけだから、高額療養費制度を利用し、差額ベッド代ができるだけ発生しない部屋を選んでも、約八ヶ月の入院期間に同程度の医療費がかかったことになる。」
 
これは経験しないとわかりにくいことだが、「高額療養費制度」は、入院した最初に言われることだから、必ず気に留めておくように。
 
そんなの自分には関係ない、と思わないように。人は誰でも年を取るし、そうなれば、かなりの確率で、病院にお世話になる。
 
共済か保険には、入っておいた方がよい。僕も本当にお世話になった。
 
最後に、「夫」が書いた、鄭義信監督の『焼肉ドラゴン』の評が、掲載されている。発病して4年後に、左手一本のキーボードで書いた映画レビューであるが、読んでいて、思わず胸が熱くなった。

(『夫が脳で倒れたら』三澤慶子、太田出版、2019年5月1日初刷)
posted by 中嶋 廣 at 09:28Comment(0)日記