どこまでも応援してるぞ――『うつ病九段ープロ棋士が将棋を失くした一年間ー』(1)

先崎学九段のうつ病体験記。
 
これは昨年7月に初刷が出て、4か月で10刷になっている。本当にめでたいことだ。
 
中身を読めば、うつから回復してくる過程で、休場している先崎九段が、この本の売れ行きによって、どれほど励まされたかが分かる。なんだか、我がことのように、心が温かくなる。
 
そのころの日本将棋連盟は、いわゆる「不正ソフト使用疑惑事件」で、大きく揺れていた(これは鬱陶しいことなので書かない。他で調べればすぐにわかるでしょう)。
 
将棋連盟の中枢の一人である先崎九段は、必死で何とかしなければと思っていた。

「そのころ、私が長年かかわった漫画作品が映画になって封切りされた。私はこの映画で、地に落ちた将棋界のマイナスイメージを払拭させてやろう、一発逆転をしてやろうと張り切って、すべての仕事を受けた。原稿、イベント、取材、ほとんど休みがなかった。
 ……
 私は毎日、家で叫んだ。『俺にマネージャーをつけろ!』」

そうして、うつ病になった。

うつが日々、どんどん重くなっていくさまは、迫力がある。
 
朝がつらくなり、眠れなくなり、得体の知れない不安が大きくなる。

「決断力がどんどん鈍くなっていった。ひとりで家にいると、猛烈な不安が襲ってくる。慌てて家を出ようとするが、今度は家を出る決断ができないのだった。昼食を食べに行くのすら大変なありさまで、出ようかどうか迷った末に結局ソファーで寝込んでしまい、妻の帰りを待つという毎日だった。」
 
先崎にとって幸運だったのは、実の兄が、精神科の医者だったことだ。
 
うつ病は一年でほぼ直るが、その過程で、貴重な経験をしたことが述べられる。

「ドン底の時はとてもじゃないがシャワーなどできなかった。
 ……
 それは不思議な感覚だった。狭いシャワー室でシャワーを浴びた時、私は少しだけ気持ちよく、そしてそのかすかな心地よい感覚にすごく懐かしいものを感じたのである。」
 
うつ病が治るときの、微かな感覚をよくとらえている。
 
雑誌などの記事は、まず読めない。でも「週刊現代」のエロ記事だけは、少し読めたのである。

「『六十歳からのエロ動画入門』とか『九十歳までSEXする為の健康法』などという記事……。その類の記事だけが、なぜかすこし読めるのだった。エロ動画もそうだが、人間の本能とはオソロシイものである。」
 
こういうところが、なかなか素晴らしい。
posted by 中嶋 廣 at 09:01Comment(0)日記