戦後を体現した編集者の死――『いま、言わねばー戦後編集者としてー』ほか(5)

最後の『いま、言わねばー戦後編集者としてー』は、松本さんが亡くなった後に出た。
 
そういう意味では遺稿集だが、しかし松本さんから、「最後の本」を作りたいという電話が、一葉社の和田悌二と大道真理子に宛ててあり、会ってみると、収録予定の原稿は、ほとんど用意されていた。
 
本の構成や目次から、書名、体裁、発行部数、定価、販売方法まで、細かく書かれたメモが渡されている。
 
これが、齢91歳、亡くなる一か月前のことだ。

全盛期、年に4,50点作るのが、当たり前の松本さんとしては、90歳を越えようが、亡くなる一か月前であろうが、本に関することは、ゆるがせにできなかった。

「収録原稿は、基本的には二〇一三年から二〇一七年までに『レイバーネット』『ほっととーく』『9条連ニュース』に書かれたものの中から選んでほしいこと、体裁はとにかく簡素に、並製でカバーもオビもつけずに表紙のみにすること、ただし表紙にはルソーの『カーニバルの夕べ』を入れたい、ページ数は二百ページ以内におさめること、などなど、あの独特の丁寧なやさしい文字でびっしりと書き込まれていた。」
 
この本は、松本さんにとって、「最後の本」になることが決まっていた。
 
その最後の本に、初めて、時事ネタを取り上げたのである。

松本さんは、考えてみれば、編集者としては、著者のことなどを取り上げて、それが今現在と切り結んでいても、本の骨格は、「追想」のかたちを取っていた。
 
それが今度は、『いま、言わねば』と題して、身の回りの時事を、正面に据えたのである。

現在の天皇制、靖国問題、護憲と反原発、ヘイト・スピーチ、〝壁〟と村上春樹、トランプ劇場、などなど。
 
松本さんは、91歳で出す最後の本で、今まさに問題になっていることに、正面を切って応えたのだ。
 
ここでは、二つのコラムを取り上げよう。
 
一つは「不都合な過去を帳消しにする安倍首相の演説」である。

「安倍晋三首相の米議会演説に、のっけから岸信介祖父が登場したのには驚いた。しかも『民主主義の原則と理想を確信している』元総理大臣としてである。」
 
岸信介といえば、戦前は満州国で、官僚として頭角を現わし、東条内閣の商工相として、積極的な役割を果たした。

戦後はA級戦犯として投獄されたが、かろうじて一命を永らえ、総理大臣としてよみがえった。そして1960年の、安保条約改定の強行採決を行い、民主主義を踏みにじった。

しかし安倍首相は、傲岸にも、そこを捻じ曲げる。

「歴史認識などどこ吹く風の安倍首相にふさわしく、祖父はまるで生まれながらの民主主義者である……。」
 
これは本当に信じられない。首相にふさわしくない人として、マスコミが、特筆大書して批判すべきことだ。
 
けれども、松本さんの真骨頂は、実はもう一本のコラムにある。
posted by 中嶋 廣 at 16:30Comment(0)日記