今度はノンフィクション――『奴隷労働ーベトナム人技能実習生の実態ー』(4)

技能実習生が、事業所から逃げることを、「失踪」と呼ぶ。

でもそれは、果たしてふさわしい言葉なんだろうか。これは自分の身を守るための「脱出」、または「避難」ではないのか。
 
2017年に「失踪」した技能実習生は、法務省の調査によれば7089人、18年も、6月末までで4279人を数える。
 
そのうちの約7割が、「失踪」の理由に、低賃金を上げたという。
 
けれども低賃金以前に、日常で曝されている、有形無形の「暴力」の存在がある。

「就労期間中に実習先企業において、むなぐらをつかまれる、顔を殴られる、すれ違いざまに肩をわざとぶつけられるという身体的な暴力、『ベトナムに帰れ』『バカ』といった言葉による暴力、モノを投げつけられる、体を触られるなどのセクハラ、ケガをしても十分に治療させてもらえない、行動を監視される、外出を禁止される、罰として雨の中で外に立たされるといった状況に置かれていた人たちがいた。」
 
ベトナム人は、これを仕方なく、日常のこととして受け入れている。もちろんこれは、一回性のものではなく、日常的、常習的に起こっていることなのだ。
 
もっとひどい例もある。

「筆者が話を聞いた技能実習生の中には、朝3時までの長時間労働で休みがほとんどないという人や、……あるいは放射能汚染の『除去』といった危険な仕事をさせられた人がいた。」
 
これを「失踪」とは呼ぶまい。どう見ても「避難」、または「脱出」であろう。
 
グエン・タン・スアンさん(仮名)は、ベトナム中部出身の20代の女性だ。この人も、渡航費用として全額を借金し、約110万を借りた。
 
この人も、縫製会社で働いた。労働時間は、午前8時から、翌日の午前3時まで。正午から午後1時までの昼食休憩と、午後5時から6時までの夕食休憩以外は、ずっとミシンの前に座り、働き続けなければならない。
 
休みは月に4日、または3日。毎日、休憩時間を除くと、17時間の労働で、ほかにどんなことをすればいいのか。
 
そして、スアンさんの手取りは、家賃や電気代その他が引かれ、月に8万~9万円ほど。

スアンさんたち、技能実習生のタイムカードは、自分では押すことができず、管理者がタイムカードを押し、管理していた。長時間の残業労働の分は、まったく計上されていなかった。
 
スアンさんは、1年以上たったとき、その縫製会社をこっそり抜け出し、東京を目指した。

そのとき頼りにしたのは、SNSであり、それを通じて派遣会社を見つけ、そこに身を寄せたのだ。

「この派遣会社は会社から逃げてきた技能実習生など、在留資格外の活動をしたり、あるいは在留資格のない外国籍者にも仕事をあっせんする会社だった。」
 
技能実習生が逃げた先に、そういう「会社」が存在し、それが結果的に、日本の産業の下支えをしていることに、注意しなければならない。
 
技能実習生が職場から逃げるのを、可能にするのは、そういう労働市場の存在があるからこそであり、まったく暗澹となる。
 
とはいえ実習生が、日本語を勉強し、莫大な費用をかけて、日本に限りない希望を持ってやってきたのに、ここまで追いつめられているというのは、しかもその数が、年々増えているというのは、じっとしてはいられないことだ。
posted by 中嶋 廣 at 09:17Comment(0)日記