今度はノンフィクション――『奴隷労働ーベトナム人技能実習生の実態ー』(1)

これは『コンビニ外国人』、『知っておきたい入管法』『ふたつの日本』に、続けて読んだ本である。
 
その中では、ノンフィクションという手法もあって、もっとも衝撃力があり、ずんと重い本であった。
 
著者の巣内尚子(すない・なおこ)は、1981年生まれのフリージャーナリストで、東京学芸大卒業後、日本で就労、その後、インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者、ライターとして働く。

2015~16年、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所の客員研究員を務め、2017年、一橋大学大学院の社会学修士課程を修了する。現在はカナダ・ケベック州の、ラバル大学博士課程に在籍する。

著者紹介を長々と書いたのは、この人も、『ふたつの日本』の著者・望月優大氏と同じく、マスコミの王道ではなくて、周辺に身を置くことによって、こういう問題、つまり日本に生きる外国人の問題が、見えてきた人なのであろうか、という疑問が、湧いたからである(もっとも、「マスコミの王道」は、今では新聞・テレビから、ネットに移っているかもしれない)。

それにしても『奴隷労働』とは、凄いタイトルの本だ。「技能実習生」が置かれている状況を、これ以上、正確に述べた言葉はない。

著者は2014年から、大学院でこの問題を研究し始めた。

「30歳をすぎ、保育園に通う子どもを抱え、仕事をしながら大学院に入った。無謀だったかもしれないが、滞在したフランス、インドネシア、フィリピン、ベトナムでの経験から得た移民、移住者への関心と、ベトナム人移住労働者の置かれた状況に対する懸念、そして移住労働をめぐる課題を知った者が何もしないのはおかしいという思いが、澱(おり)のように蓄積され、ベトナムの人たちの移住労働について調べ、研究することを諦めるわけにはいかなかった。」

「澱のように蓄積され」というところ、いいですね。自分が研究せずにはおられない、もうどうしようもない、というところが、如実に出てますね。
 
そこで著者は、移住経験を持つベトナム人に、聞き取りを開始した。

一般に、ベトナム人が日本に労働者として来るだけで、渡航費用は100万円前後にもなる。しかも制度的に、ある期間が来ると、借金があろうと無かろうと、帰国しなければならない。その間、日本にいる間、転職は禁じられている。

著者は2014年から、聞き取りを開始した。2018年夏には、特に、雇用先から逃げた技能実習生に、逃げるまでの動機や、逃げるためのルート、その後の就労と生活の実態を聞いた。

そして、それがどんなに凄まじいことであるか、を知ってもらうために、この本を書いたのである。
posted by 中嶋 廣 at 10:56Comment(0)日記

立ち直っていく話――『ノースライト』

横山秀夫の長編ミステリー。これは面白い。
 
連れ合いの田中晶子は、それほど感心しなかったというが、それは脚本家という実作者と、僕のような単なる読者の違いによるだろう。その違いも面白い。
 
話の筋は単純である。
 
一級建築士の青瀬稔は、夫婦者から依頼があって、新築の家を設計するが、施主は忽然と姿を消し、空き家には、「タウトの椅子」だけが残される。タウトは、20世紀の巨匠建築家、ブルーノ・タウトのことである。
 
青瀬は探偵の役割を負い、試行錯誤しながら進んでいくわけだが、そのとき、施主から、あなたが住んでみたいと思う家にしてください、それが唯一の希望です、といわれたことが、重要なポイントになる。
 
この小説は、まず何といっても、文章がいい。程よくめりはりが効いていて、余計な装飾が一切ない。
 
そして、表に浮上してくる筋書きとは別に、青瀬は、バブルとその崩壊で、打ちのめされている。その渦中にあるときに、離婚もしている。
 
つまりこれは、酔いどれ建築士が、立ち直っていくというのが、真の筋書きである。
 
だから本当に話は単純で、内面の動きを除けば、アクションは少ない。
 
ここが、田中晶子の不満に思うところであり、僕が、息詰まる内面描写があって、好きなところである。
 
ハードボイルドという真の筋書きがわかってしまえば、離婚した女房の描写が、少々甘かろうが、姿を消した施主の依頼が、ちょっと浮世離れしてようが、僕は全然気にならない。
 
チャンドラー張りに、心を許しあった友人との「長いお別れ」、つまり死があり、ロス・マクドナルドのような、親の代までさかのぼる、因縁話もある。
 
そういうハードボイルドな話に、横山秀夫の文体はぴったりだ。

「タウトの椅子」が効果的に使われているのにも、唸った。
 
最後の、真相を解き明かす手紙も、地の文と混ぜ合わせて、実に巧みである。
 
久しぶりに、ハードボイルドの名作を読んだ。

(『ノースライト』横山秀夫、新潮社、2019年2月28日初刷)
posted by 中嶋 廣 at 11:42Comment(0)日記

これからの日本の指針――『ふたつの日本ー「移民国家」の建前と現実ー』(5)

著者は言う。外国人労働者の募集や斡旋については、民間に任せておかず、送り出し国と日本が、直接的なかたちで関与する、ということを検討すべきではないか。
 
これは一刻も早く、政府間交渉をし、技能実習生が、『日本の下層社会』や、『あゝ野麦峠』の現実から、脱出できるようにしなければならない。これは、今現在起こっていることなのだ。

「……移民を同じ人間として受け入れ、それぞれに必要な支えを提供し、誰もができるだけ『安定した生』を生きられるように努める移民政策へと転換することができるか。安価でフレキシブルな労働力という幻想を捨て、一人ひとりが経験する当たり前の現実へと目を向けることができるか。」
 
人間個人の限界は、すぐ先にある。外国人が働くのを見て、なんとなく一段高いところから、その様子を眺めていたり、経営者になったら、突然、効率よく、低賃金で、長時間働かせたりするのが、「頭のいい」経営者であったりする。
 
でもそれは、間違った思い込みだ。
 
人間が、個人を超えるところまで踏み込んで、個人を内側から拡張、改革していくのは、実はけっこう大変である。
 
自分のことを考えたって、そう思う。

『日本の下層社会』や『あゝ野麦峠』なんて、古い話で、関係ないや、と思っていると、見事に足をすくわれる。

「今、目の前にふたつの道があるーー撤退ではなく関与の方へ、周縁化ではなく包摂の方へ、そして排除ではなく連帯の方へ。これは『彼ら』の話ではない。これは『私たち』の問題である。」
 
実際、卑近な話をすれば、ここから五年以内に、日本が浮かび上がれるか、沈んでいくか、の結果がおそらく出るだろう。
 
日本の人口が急減していく話も含めて、ここから先、外国人については、日本に来てくれるか、くれないか、という話になるはずだ。

その時、私たちの態度が問題になる。
 
この本は、実に内容が豊富で、私が紹介したところは、全体のごくわずかに過ぎない。もし今年も、「新書大賞」があるとすれば、筆頭に挙げられる本である。

(『ふたつの日本ー「移民国家」の建前と現実ー』
 望月優大、講談社現代新書、2019年3月20日初刷)
posted by 中嶋 廣 at 11:11Comment(0)日記

これからの日本の指針――『ふたつの日本ー「移民国家」の建前と現実ー』(4)

「技能実習生」の問題は、深刻である。

テレビや新聞を見れば、ここ数日は、「令和元年」で踊り浮かれているようだが、国内でおおぜいが「失踪」し、秘かに日本で働き続ける「技能実習生」のことは、すぐにも表に浮上させるべき話だ。

そもそも、2017年11月に施行された技能実習法では、技能実習の目的を、こう定義していた。

「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術または知識の移転による国際協力を推進することを目的とする」
 
法律の条文なので、意味がわかりにくいが、つまりは先進国である日本から、発展途上国への、技能の移転による国際協力である。
 
外国人は、派遣された職場で、職業教育を身に着け、その技能を持ち帰り、自国の発展に生かしてもらうということである。いってみれば、ODAの位置づけに近い。
 
しかしこれは、まったくの建前、虚構である。
 
技能実習生は、表では受け入れを認めていない、低賃金の出稼ぎ労働者を、受け入れるための、方便として機能してきた。

「地方にある工場や、日本人労働者を採用しづらい重労働かつ低賃金の職場にとって、この制度は労働者を継続的に獲得して事業を維持していくために必用不可欠なシステムとなってきた。」
 
その結果、どこにいても、働く外国人を見ないことはない、という事態になった。

「実習生が特に多いのは、食品製造、機械・金属、建設、農業、繊維・衣服などの第一次及び第二次産業である。」
 
しかしもちろん、先にも述べたように、この労働環境は本当にひどいものだ。

「長時間労働、最低賃金違反、残業代の不払い、安全や衛生に関する基準を下回る職場環境、暴力やパワハラなど……」。
 
厚生労働省が、2017年に行なった、全国約6000の事業場の監督指導では、その7割以上で、労働基準法違反が認められた。

なんと、7割以上でっせ!。
 
これでは、日本の経営者は、血も涙もない人種だということになる。たぶん「経営者」になった瞬間から、十人中七人は、人格が変わって、「有能な経営者」になるのだろう。
 
技能実習生が、徹底的に弱い立場にあるのは、日本に来て、職場を自由に変われないことにある。

「通常の労働者には悪質な事業者や相性の悪い職場を去って別の職場を探すための自由があるが、実習生にはその自由がない。たまたま割り当てられた企業に残るか、帰国するかという選択になり、それ以外の選択肢がない。」
 
けれども、たとえばベトナムの技能実習生であれば、たいていは日本へ来るために、莫大な借金をしているために、帰国の選択肢も無くなってしまう。
posted by 中嶋 廣 at 10:29Comment(0)日記

これからの日本の指針――『ふたつの日本ー「移民国家」の建前と現実ー』(3)

そもそも外国人は、なぜ日本で働くことを選ぶのだろうか。そしていつまでも、その同じ民族や国民が、日本を選び続けるのだろうか。

「日本が外国人労働者に大きく門戸を開いた 1990年前後というのは、日本経済の絶頂期でもあった。発展途上国との経済格差がどんどん開き、円の価値もどんどん上がり、日本で出稼ぎ労働をすることの価値はとても大きかった。しかし、その後の平成という時代は日本経済が停滞した30年間だった。発展途上国との経済格差、賃金格差は一気に縮まっていったのである。」
 
つまり、ブラジルが成長したら、そこは打ち止めになり、中国に取って代わられる。中国が成長したら、ベトナムに代わられる。そうした経済格差をテコにした、外国人送り出し国の変遷は、どこかで飽和して限界を迎える。
 
それはそうだろう。一般に発展途上国の方が、日本よりも速いスピードで、経済成長をしているからだ。
 
いま日本では、ブラジル人や中国人は、ピーク時よりも少なく、アジアの中でも経済水準のより低い国、つまりベトナムやネパール出身の労働者が、増えているのだ。
 
さらに近年、韓国や台湾などでも、外国人労働者の獲得競争が起こっている。
 
また中国も、急激な高齢化が叫ばれ、これから外国人労働者の獲得競争に、乗り出してきそうである。

「今後も日本の経済水準の高さを暗黙の前提とし、ドアさえ開けばいつでも必要とする外国人労働者が入ってくるだろうと考えるのは楽観的に過ぎる。」
 
これは本当に、身に染みて聞くべき言葉である。
 
なぜなら、去年の7月から始まった、日系四世の受け入れが、はかばかしい進展を見せていないからである。
 
ここには、日本政府が理想とする外国人像が、集約されている。

「若くて健康、病院を利用せず、単身で家族を持たず、ある程度は日本語ができ、犯罪歴もなく、社会保障に頼らずとも自分の生計を維持でき、数年以内には自分のお金で帰国していくーーこのリストには現在の政府が理想とする外国人像が投影されているように見える。」
 
結局これでは、底辺労働者である「技能実習生」と、変わらないことになる。

「こうして『理想』の条件を提示した結果は、年間最大4000人の見込みに対して実際の入国者が半年でわずか4人だけというものだった。」
 
日本の経済水準を示していけば、いつでも大丈夫、とはいかないのである。
posted by 中嶋 廣 at 09:18Comment(0)日記