デジャヴュ――『盤上の人生 盤外の勝負』『升田幸三の孤独』『最後の握手ー昭和を創った15人のプロ棋士ー』(4)

「藤井聡太は、人格が完成されてるんや。しかも、中学生のころから。これはいったい、どういうことなんやろなあ」

「ふふ、うふふふ」
 
Nやんも、苦笑いするほかない。

「べつに難しい漢字を、使うせいやない。いや、それも含めても、ええかもしれんけど、とにかく人格が完成されてる」

「第11回朝日杯将棋オープン戦のとき、今度の前のやつやけど、佐藤天彦名人が、藤井に負けた後で、感想戦をやってたんや。それが進んで行くにつれて、名人がひたすら、へりくだりおるんよ。これはたんに、名人が読み負けてる、という問題やないと見たが、どうやろ」

「将棋は、ふつうは段位が進むに連れて、人格もそれなりにできてくるもんや。例えば渡辺明。最初は言いたい放題やったけど、龍王を取って、何回かタイトルを重ねてくるにしたがって、人格ができてきたもんや」

「それが、藤井は中学生のころから、完成されてるやろ。つまり将棋は、人格が優れたものほど、将棋も優れたものやと、いえるんかいね」

「うーむ、どうやろ。そういえば、羽生も佐藤〔康光〕も森内も、人格的にもなかなかのもんや、と聞いてるけどな」

「将棋のライターには、その点を聞きたいけどなあ。本当のところ、将棋の技術と人格は、どういう関係なんやと」

「ほんまやな。そこがもっとも聞きたいとこや」

「それを、藤井と絡めて書いたら、けっこうベストセラーになるかもしれんで」

「しかしこれは、書き手も力量を試されるで。いまの将棋ライターでは、無理かもしれん」

「むかしは、五味康祐とか、山口瞳がいたんやけどなあ」
 
Nやんは、そこでしばらく黙っていたけれど、話の方向を転換させた。

「ところで藤井は、どこまで行くやろ」

「まあ、8大タイトルは、全部取るな。名人、龍王、王位、王座、王将、棋王、棋聖、叡王のうち、名人は挑戦するのに、あと四年ほどかかるやろけど、それ以外は、あと2、3年で、全部取るやろな」

「羽生の時代は、7大タイトルやったが、タイトルを全部持ってたんは、わずかに5カ月や」

「藤井は全部のタイトルを、たぶん10年は、持ってると思うよ」

「そうやな。藤井が同じ相手に、連敗というのは、考えられんから、そうすると、あと10年は、全タイトルを独占、ということになりそうやな」

「考えると、頭がくらくらしそうやけど、でもこれはこれで、異様な光景で楽しいな」

(河口俊彦『盤上の人生 盤外の勝負』マイナビ、2012年8月30日初刷、『升田幸三の孤独』マイナビ、2013年2月28日初刷、4月5日第2刷、『最後の握手ー昭和を創った15人のプロ棋士ー』マイナビ、2013年12月31日初刷)
posted by 中嶋 廣 at 15:08Comment(0)日記