デジャヴュ――『盤上の人生 盤外の勝負』『升田幸三の孤独』『最後の握手ー昭和を創った15人のプロ棋士ー』(3)

「結局のところ、藤井聡太が出てきて、何が変わったんや」

 Nやんが僕に聞く。

「一番の違いは、ほかの棋士全員が、藤井を天才と崇めてることや。というか、そういうことを、露骨に示していることや」

「ほほう!」

「棋士はみな、自分を天才やと思てるから、そして事実そういうことやから、相手を讃えるときでも、自分もなかなかの者やけど、相手も立派や、という言い方でしか誉めよらん」

「まあ、そうやねえ」

「大山名人なんか、誉めるどころか、どんな人間も必ず間違える、だから、全体で八割、正解を出してれば、一曲の将棋はだいたい勝てる、という主義や」

「その前の、木村義雄名人と升田幸三なんか、ああ言えばこう言うで、本当にすごいものやった」

「でもそれは、お互い、天才であることを認めたから、やってるわけや」

「唯一の例外は、羽生が谷川を認めて、この人が出てきて、将棋は変わったと言うたんや」

「谷川の高速の寄せ、か」

「それだけやない。駒を点数化して、はっきり、どちらがいいか悪いかを、その時点で言うようになったやろ」

「羽生は、谷川が初めてそういうことをやった、とはっきりいうたんや。先達に対して、尊敬をもってな」

「それは、稀有な例やね」

「藤井聡太に対するのは、それとは違うんかい」

「この前、2月に、藤井七段と渡辺明棋王が、第12回朝日杯将棋オープン戦の決勝を戦こうたんや」

「うん、それはもちろん知ってる」

「渡辺はこの一年、鬼神のごとき活躍で、タイトル戦もほとんど敵なし、たぶんこの時点で、藤井を除けば、ダントツの存在やった。それが、藤井に対しては、まったくのボロ負けや」

「うーむ」

「渡辺は、自分のブログでも書いてて、この将棋でチャンスがあるとすれば、一箇所だけ、しかし藤井は、そういうことが分かってて、それを上回る手を考えてた、という」

「それでとにかく、渡辺は、へへーっ、となってるわけやな」

「それに立ち会うとったんは、佐藤天彦名人で、渡辺と佐藤、二人の天才が、後の検討会で、いろいろ言うてみたけど、ああ言えばこう言うで、藤井に全部、なぎ倒されたそうや」

「そうか、そうすると、棋王と名人が2人そろうて、参りましたとなったわけやな」

「しかしたんに、それだけやない」
posted by 中嶋 廣 at 23:23Comment(0)日記